鳥籠から連れ出して

水天使かくと

第1話 突然の出会い

放課後、茶道部の茶室にて1年女子たちがこそこそと話をしている。


「ねえねえ、きいた?謹慎処分になってた3年の先輩、明日からくるんだって。」

「えー。まじ!なんで謹慎処分になったの?」

「なんでも他校の生徒と喧嘩らしいよ。」


「ちよっとそこ…静かにしてちょうだい。」

と話している1年女子たちに注意する。


1年女子たちがおどろき固まる。

「す、すいません…桃瀬先輩。」


私は桃瀬 美桜ももせ みお。高校3年生。茶道部の部長をしている。まわりは皆、生粋のお嬢様だといい羨ましいがっているが…でもほんとの私は…そんなんじゃない…。


小さい時から両親、とくにお父様のいうことをきいてきた物わかりのいい優等生の娘を演じてきた。

でも最近、小さい時からお父様が決めた婚約を自分から破棄してしまった。お父様はもちろん反対したけど、娘の気持ちを思うお母様の説得もあり、とりあえずこの件をおさめてくれた。


その元婚約者 高梨 蓮たかなし れんには、今や可愛らしい彼女がいる。


蓮に対する気持ちは、どことなく弟に近い感情だったような気がしていたためか、なんだかホッとしている。


元々、婚約も、お父様と蓮の父親が仕事仲間で、それで会社の結束を固めるためのもの。蓮にはずっと、窮屈な思いをさせていたので、幸せそうな蓮の姿をみると微笑ましくも思える。


私もかわったのかしら…。いえ、違う。何も変わってない。変えられてないじゃない。

まだ、今でもお父様の言いなり…。

お父様はいつも私を仕事のために利用しているように思う…。

はぁ…自由のない私の人生って…籠の中の鳥…みたい…。


部活も終わりに近づき、片付けをしているとさっきの1年女子 柚木さんが話しかけてくる。

「桃瀬先輩、あとは私達でやっておきますので大丈夫です。ところで先輩、さっきゆってた謹慎処分になってた3年の男子先輩って、たしか桃瀬先輩と同じクラスですよね…そんな野蛮な人と大丈夫でしょうか…。」

と心配してくれている。


「大丈夫よ。クラスが同じでもそんな接点なんてないしね。」

「そうですよね。でも気をつけてください。なんたって先輩はあこがれのお嬢様なんですからー!」


「ありがと。」といって、先に帰ることにする。


家への帰り道、どこからか犬の鳴き声が…。

「クーン…クーン…」

私は鳴き声のする方へ歩いていく。

そこには段ボール箱に入れられた子犬が震えながら鳴いていた。

私の姿を見るなり「キャンキャン!」と力を振り絞ってるかのように鳴く。

私は箱のそばに座り

話しかける。


「きみは捨てられたのね…なんでこんなひどいことを…。」

じっと、箱に入った子犬をみつめる。

「クーン…」

「なんだか私みたい…。でもね、きみには自由がある。きみが羨ましい…。私には…自由なんかない…。」


と子犬に話しかけていると、背後に人の気配が…!恐る恐る振り向くとそこには大柄で筋肉質の切れ長の目の男が立っていた。目つきが鋭い。

「きゃあ!」と思わず声をあげ、私は尻もちをついた。


「おいおい。大丈夫か?俺はお化けかよ。驚きすぎだろ。」

私はしばらく呆然としていた…。

あれ?この制服ってうちの学校?あれこれ考えていると

「ほら。」と男が手を差しのべてくる。

「だ、大丈夫です。」と自分で立ちあがり、スカートの汚れを払う。

「ふーん、お嬢様ってのは、俺みたいな男の手はとれねぇってか…。」

「どうして私のこと知ってるの?」

「そりゃ、うちの学校じゃ、有名なお嬢様だろ?」

やっぱり…。

「それより、そこどけ。」

「えっ、この子に何するの?」とかなり不安になったが、男は子犬の前に座り少し笑みを浮かべながらパンをあげている。

その光景がなんだか微笑ましくも思えて、私もしばらく一緒にみてた。


「よし!いくか。」

と男は子犬を抱き抱える。

「ちょっとどこに連れていくのよ。」

「家に連れて帰んの。あんたのとこどうせ無理なんだろ?飼うの…。」

ず、図星だ。お父様が許すわけない…。

「じゃな。」と子犬を肩に乗せ歩きだす男。ちょっとまって…私も子犬を抱きしめてあげたいのにー。


「あ、あの…名前…名前は?」

「ん…?名前?あー、そうか。あんたは知らないのか。俺は葡波 翔ほなみ しょうだ。覚えとけ。」というと、子犬に話しかけながら帰っていった。

「葡波 翔…またあえるかしら…。」と私も足早に家路を急ぐ。











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