第17話 白と黒のバトルジョスト

 「やはり間に合わなかったか」

 控室で牛田が唸る。

 「千鶴のマシン、修理パーツが届かずまだ治らないですって?」

 ミサキが恐る恐る千鶴に尋ねる。

 「ごめんなさい。他に家でバトルジョスト出れそうなのって岸野君?」

 千鶴が謝り学へと話を振る。

 「やれるだけやりますよ、誰が相手だろうが」

 予想外の出番に学は腹を決めた。

 王道館側は不測の事態で選手交代で岸野学が出場となった。

 「家がシード枠だ、準備を頼む」

 牛田が学に頭を下げた。


 外部から招いた審判が到着し、試合が始まろうとしていた。

 「よもや、相手が彼女とはな」

 フリーデンがブラックドラゴンとなったジークリンデに跨り、試合開始を待つ。

 対戦相手はセイバーメイ、以前キングマモーン戦で共闘した相手だ。

 「フリーデン、がんばれ~♪」

 「ここで一発ぶちかませ~♪」

 「頑張って~♪」

 相手は知り合いだが、学校を背負って来ている以上容赦はしない。

 一方、サリ女側もざわざわしていた。

 「まさか岸野君と当たるとは、勝ってもまた岸野君が相手ですか」

 セイバーメイとなり水色の肌をした馬の怪物ケルピーに跨るメイ。

 「メイさん、しっかりね♪」

 エリザベスが微笑む。

 「会長、圧が出てますよ♪」

 フィーナが会長に告げる。

 「まあ、ここで勝ってもらわないと厳しいからね♪」

 ジョーが微笑む。

 「まあ、負けても私が巨大相撲で勝てばいいのだ♪」

 ヴァネッサは余裕だった。

 「む~っ! 私とケルピーの連携プレー、見せてあげます!」

 

 セイバーメイとフリーデンがともにコースに入る。

 試合開始の合図と共に、両者駆け出す!

 「せいや~~~っ!」

 「うお~~~~っ!」

 馬上で太刀と騎士槍が打ち合えば、ケルピーとジークリンデが同時に水と闇を吐き出し合い互いに特典を与えまいと競り合う!

 「やりますね、ですが私も負けるわけにはいきません!」

 セイバーメイ、太刀を上段に構えて竜巻の如くフルスイングする。

 「危ねえ! ならこっちも竜巻だ!」

 フリーデンも相手の太刀を避けてから、アッパーカットのように槍を突き上げて風を起こす。

 普通のジョストではありえない一進一退の攻防を騎士も乗騎も繰り広げる。

 「パワー馬鹿のメイに負けてないって、何者なのだあの竜騎士!」

 馬鹿にしつつもメイのパワーは認めているヴァネッサが驚く。

 「メイ~ッ! がんばれ~っ!」

 メイとは仲の良いフィーナが応援する。

 椿原の方もフリーデンを応援していた。

 「行け~! お前がぶっちぎれ~!」

 「頑張れ~、二人共~っ♪」

 「二人とも、学君には負けても良いからここは勝ちなさい!」

 「鉄鋼寺さん、その応援はないと思う」

 椿原は一部、ひどい本音も混ざりつつ好き勝手な応援だった。

 双方、仲間達の応援を受けつつ競り合いを続ける。

 「一撃を決めればポイントがっ!」

 にわか知識で、ポイントの高い頭部を狙い攻めて来るセイバーメイ。

 「ち、やはり頭部一点狙いか!」

 相手の狙いを当て、必死に武器で受け流しをして凌ぐフリーデン。

 だが、勝負は馬上ではなく乗騎同士の対決で決着が付いた。

 セイバーメイの乗ったケルピーが、ジークリンデを噛もうと頭を突っ込んだ瞬間に逆にジークリンデに頭を食われて水へと変化した。

 「ケルピー!」

 「隙ありっ!」

 乗騎を食われたセイバーメイが唖然とした瞬間、フリーデンの槍が彼女の胸を突いた。

 「勝負あり、椿原の勝ち!」

 外部から招いた審判が旗を上げて一番目の勝負は、椿原に軍配が上がった。

 落馬した形のセイバーメイは起き上がり仲間の元へと帰って行く。

 「お疲れ様、メイ♪」

 「残念だったね」

 「あれは仕方ないのだ、ドラゴン乗りの相手は分が悪かったのだ」

 「メイちゃん、お疲れ様」

 サリ女の仲間達は落ち込んで戻って来たメイを慰めた。

 「うう、悔しいです~~!」

 メイは泣き、仲間達はその涙を受け止めた。


 「岸野君、お疲れ様♪」

 帰って来た竜也達を山津会長が迎えた。

 「やったね♪」

 「次は身内との勝負か、気張れよ♪」

 希や高速先輩も出迎える。

 「たっちゃん、大丈夫?」

 「ああ、次はちょっと気が重いぜ」

 「委員長も複雑そうな顔をしてるしね」

 ジークリンデがマルタを見ると、マルタが冷静さを保つ為なのか正拳突きを繰り出していた。


 そして、フリーデンの次の相手となる王道館チームは控室で一番目の試合を見ていた。

 「ほう、中々やるな君の従兄弟は? うちの学校に欲しい人材だ♪」

 微笑みながら試合を見ていた牛田。

 「ちょっと~? 大丈夫なの、岸野君?」

 後輩を心配するミサキ。

 「そうね、後半は防戦気味だったけどあの黑いドラゴンが厄介ね?」

 千鶴もフリーデンを分析しながら見ていた。

 「俺は初心者、あっちは大会出たりと経験値はありますよ」

 学はバトルジョストのルールブックを読み込んでいた。

 「君には本当に、急な出番で申し訳ないが頑張ってくれ」

 牛田が学に頭を下げる。

 「仕方ないっすよ、相手の土俵ですが必死こいてきます!」

 仲間達にそう答えると、学は席を立ち控室を出て行った。

 

 そして、二本目の試合の時間になろうとしていた。


 「鉄鋼寺さん、苦虫を噛み潰した顔になってるわよ?」

 山津会長がおどおどしながらマルタに声をかける。

 「だって、他校生の彼氏と家の生徒であるその従兄弟が学校を代表して戦うんですよ? 学校の名誉も彼氏の勝利もどちらも重いです!」

 マルタ、血涙を流して叫ぶ。

 「風紀の鬼が、血の涙を流してるよ」

 「うちの岸野が勝ったら、血の雨が降るんじゃねえのか?」

 希と飛車がビビっている。

 「先輩と夢田君を私の拳で血まみれにしても良いんですよ?」

 般若の顔で希達を見やるマルタ。

 「いや、勘弁してくれよ!」

 「横暴すぎるよ!」

 断固拒否する二人。

 「そうね、流石にそれは見逃せないわ」

 山津会長も止める。

 「はい、だから必死に自分を抑えて大人しく見ています」

 マルタ、血涙を流す般若の顔で見ている。


 「え? 何か椿原の人凄い怖いんだけど?」

 「ヤバいよあれ、ヴィランの顔だし」

 「日本では恋に苦しんだ女が鬼になるっていうけれど流石に不味いわね?」

 「マジで怖いのだ、本当にメイはあの女と共闘したのだ?」

 「はい! あの時は真面目な方と言う印象だったんですけれど?」

 「信じられないのだ!」

 ヴァネッサが叫ぶ、サリ女の面々も学校行事なので試合を見ているが椿原の様子を眺めて恐れおののいていた。

 

 そんな中、白虎の武者と言える鎧姿の白陽が王道館のチームを引き連れて登場する。

 白陽の乗る乗騎は、何処か幻想的な雰囲気を醸し出している白虎であった。

 ブラックドラゴンとなったジークリンデに乗て登場したフリーデンが仮面の下で苦い顔をする。

 「ヤバイ! あれは白牙しろきば、我が一族の守り神様だよ!」

 「え? そう言うの狡くない家の力関係出して来るのって?」

 「仕方ないよ、学って乗り物の免許持ってないもん」

 白陽の乗騎の白虎を見て、自分の一族の守護神に当たる神霊だと悟るフリーデン。

 「じゃあ、相手の乗騎を狙う戦法は使えないね?」

 「そういう方向で宜しく、後は相手の雷がヤバいから気を付けて」

 試合前の最後の相談をするフリーデンとジークリンデ。


 一方、白陽も白牙と試合前の会話をしていた。

 「よもや、岸野一族で試合とはな」

 「あっちの乗騎は竜也の嫁さんだから狙わないで」

 「わかっておる、あちらも岸野の一族ゆえにな」

 「ありがとう、白牙♪」

 白牙に礼を言う白陽、そして試合が始まった。

 白陽が二本の太刀を抜刀すると、一瞬だけ天が荒れ落雷が白陽の太刀に降り注ぐ。

 フリーデンも、槍に闇を纏わせ合図と同時に互いに駆け出した。

 「神雷二刀ノ太刀じんらいにとうのたち、受けて見よ!」

 「受けたくねえよ! ドゥンケル・シュトゥルム!」

 雷光を纏いし二刀の一閃を、闇の竜巻を纏う槍を振るい凌ぐフリーデン。

 互いの技がぶつかり合い、両者ともに技が弾かれる。

 「ならば、神雷疾走じんらいしっそうっ!」

 二刀を交差させ、刀身から光線のように電撃を放って来る白陽。

 「ホルン・ブリッツェン!」

 フリーデンも兜の角から黒い電撃を放ち相殺を狙う。

 その狙いどおり、白と黒の電撃が空中でぶつかり合い爆発して相殺された。


 二人の試合を見るそれぞれのチーム。

 「学君に勝ってほしい、もう学校の応援なんてしない!」

 マルタは本音を漏らしながら見守る。

 「すっかり恋する乙女モードね、鉄鋼寺さん」

 山津会長は呆れ希と飛車は静かに見守っていた。

 椿原チームとは対照に王道館は普通に応援していた。

 「頑張れ~! 勝ったら焼肉にゃ~♪」

 ミサキが口調を猫のように変えて応援する。

 「岸野君、生徒会の隠し予算から費用は出すから頑張って~!」

 千鶴がとんでもない事を言い出しながら応援する。

 「まさに竜虎だな、同年代との切磋琢磨は財産になる♪」

 牛田会長は真っ当に試合を見ていた。

 

 そして、試合をする当人達はと言うと仲間の応援が力になっていなかった。

 「白陽よ、竜也の方もやり折るな♪」

 「いや、喜ぶなよ対戦相手なんだから!」

 距離を取り乗騎と語らう白陽、手の内を知る相手な上に競技は相手の方が一日の長があり膠着により焦りが生まれて来ていた。

 「何とかして決めたい、向こうも同じだろうけれど!」

 両手の太刀を上段に構える白陽、再び天が荒れて達に雷が降り注ぐ。

 「……ほう、その技で行くか流石は正統伝承者♪」

 白牙が微笑んだ。


 「え、あっち何か奥義っぽい構えを出して来たよ?」

 「ああ、多分奥義だから見た事ないけれど」

 フリーデン側は相手が必殺技を出そうとして来て、ジークリンデが焦った。

 「大丈夫なの? 何か強そうだけど」

 「大丈夫、こっちはこっちでシンプルに必殺技で行くから♪」

 ジークリンデをなだめるフリーデンは槍を中段に構える。

 フリーデンも本人だけでなくジークリンデも全身から闇の魔力を噴出させる。

 双方が技の準備に入った所で白陽の方が先に技を繰り出した。

 「雷牙両断らいがりょうだんっ!」

 巨大な虎の牙の如く雷光を放出しながらの斬撃を繰り出す白陽。

 「ドゥンケル・シュトゥルムアングリフッ!」

 だが、白き雷光の牙を一陣の黒風と化したフリーデンは駆け抜けて

槍の一突きで白陽を乗騎である白牙から突き落としたのだった。

 

 「勝者、椿原!」

 審判の旗がフリーデンの側に上がり、勝敗が決した。

 「……ふう、何とかタイミングが間に合ったぜ」

 変身を解いて仲間の所へ戻った竜也達はマルタ以外には喜ばれた。

 変身が解けた学へは王道館の仲間達が駆け寄り彼を助け起こした。

 「惜しかったが、よくやったぞ♪」

 牛田が学の健闘を笑顔で讃える。

 「あ、ありがとうございます会長」

 疲れた様子で学は称賛に答えた、白牙はいつの間にか消えていた。

 「岸野君、結構やるじゃない♪」

 「ご苦労様、残念だけどありがとう」

 ミサキは学を讃え、千鶴は謝った。

 

 サリ女の生徒達は静かに立ち去った。

 「さて、それでは次は俺が後輩に良い所を見せねばな♪」

 牛田は次の競技である巨大相撲へ向けて笑った。

 

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