第5話 初めての必殺技

 両親にクラウスにジークリンデにと、周囲に支えられて竜也はヒーローとしての自分を組み立てて行った。

 今日は土曜日、学校は休み。

 それを利用し、ファフナー邸の庭で竜騎士の武器の練習をすると言うので竜也は変身していた。

 「ファングシュベルト!」

 武器の名を叫ぶと、フリーデンの両手に竜の牙のような銀色の刃を持つ刀が握られた。

 「何で、騎士なのに武器が刀なんだろう?」

 握った獲物を見つめながらフリーデンが呟く。

 「たっちゃんが日本人だから、刀なんじゃない?」 

 ジークリンデにも理由はわからないようだった。

 武器を手にしたフリーデン、まずは素振りをする。

 「何というか、自分の体と一体化してる感じだ」

 重さなど不便がなく振るえる事に驚いた。

 「それじゃあ、次はブレスを武器に纏わせてみて」

 以前ジークリンデに教わったドラゴンのブレスの吐き方を思い浮かべる。

 「お、刀身が黑い闇のエネルギーに包まれた!」

 悪の幹部の武器みたいだなと自分でも思うフリーデンであった。

 今度は刀にブレスを纏わせた状態で、真っすぐや斜めの切下ろしや切り上げに左右の薙ぎ払いなどを練習してみる。

 「たっちゃん、格好良い♪」

 ジークリンデはフリーデンの動きに見惚れていた。

 「祖父ちゃん家で稽古受けた時は、従姉妹達に駄目出しされまくってたよ」

 「……ちょっとたっちゃんのお祖父ちゃん家行って、その従姉妹シメて来るね♪」

 「祖父ちゃんの所やべえから駄目だって、リンちゃんは俺の傍に居てくれ」

 「……うん、えへへ~♪ たっちゃん、大好き~♪」

 ジークリンデがフリーデンに後ろから抱き着いた。

 その時、二人は事件っを感知した。

 「……あ、見えた! 事件だな、これ」

 「うん、こんな時に二人の時間を邪魔をする事件ね」

 事件を感知した二人の目に映る光景、それは幼稚園バスが白いイカの怪人の触手に捕らえられ採石場らしい場所へと怪人がジャンプで移動するシーンだ。

 「リンちゃん、お願い」

 「オッケー♪」

 ドラゴンに変じたジークリンデの背に乗り、フリーデンは飛び立った。


 「ゲ~ソッソ♪ 園児共を怪人の素材にしてやるゲソ~♪」

 バスを地上に降ろし、触手でドアを破壊して園児達を物色しようとするイカ男。

 だが、そうは問屋が卸さなかった!

 「そこまでだ外道っ!」

 ドラゴンの雄叫びと共に、怪人の触手を切り落として怪人とバスの間に割り込むように地上に舞い降りたのは黑き竜騎士フリーデン。

 「き、貴様一体何者ゲソ!」

 「暗黒の竜騎士、フリーデン!」

 名乗りを上げ、愛刀ファングシュベルトを上段に構える。

 「馬鹿め♪ かかれ戦闘員ども~♪」

 「チュ~ッ!」

 フリーデン達の周囲を地面の中から現れた黒ずくめの戦闘員達が包囲する。

 「馬鹿はお前だ怪人、頼むぜジークリンデ!」

 フリーデンの叫びに空を舞う漆黒のドラゴンが、口から暗黒のビームを吐き出し

戦闘員どもを薙ぎ払う。

 

 「ゲ、ゲソ~ッ! ええい、まだまだかかれ~!」

 再び戦闘員を召喚し包囲殲滅を狙う怪人だが、再びジークリンデのブレスに戦闘員が倒された。

 「お、おのれ~! ドラゴンを使うなんて卑怯ゲソ~!」

 「子供を攫って悪さしようとする輩が言うな!」

 ファングシュベルトに暗黒のブレスを纏わせて、襲いくる触手攻撃をスパスパと切り払って行くフリーデン。

 「ゲソ! 貴様もしや、グリーンスパイダーを倒した竜騎士?」

 今更フリーデンが何者かに気付くイカの怪人ことホワイトゲッソー。

 「奴はそんな名前だったのか、そしてチュートリアルの怪人よお前も後を追え!」

 ホワイトゲッソーの首元に愛刀を突き付けるフリーデン。

 「我が名はホワイトゲッソー! 嫌なこった、喰らうゲソ!」

 ホワイトゲッソーは口から墨を煙幕状態で吐き出す。

 だが、そんな事でフリーデンからは逃げられなかった。

 「闇に目くらましが効くかよ、子供を攫おうとしたり新人潰しをしたりするアホ組織の奴らはここで狩る!」

 怪人が吐いた墨の煙幕を、暗黒の刃が吸い込んだ。

 「ゲソ! 墨が闇に吸い込まれたゲソ!」

 「賞金は首だけあれば貰えるな、ドゥンケル・ヒンリヒトゥングッ!」

 闇の刃が振るわれ、ホワイトゲッソーの首を切り落とす。

 ドゥンケル・ヒンリヒトゥング、ドイツ語の闇と処刑を意味する単語を組み合わせた名を付けられた技。

 これがフリーデンが初めて使った、必殺技であった。

 

 油断せず変身を解かず、バスへと向かう。

 「俺は暗黒の竜騎士フリーデン、怪我をした人や子供はいませんか?」

 バスの中に入ろうとせず、ドアの前で声掛けをする。

 「あ、悪の幹部だ~~~っ!」

 だがフリーデンを見た園児の一人が泣き出すと、連鎖的に子供達が泣き出した。

 黑いドラゴンがモチーフな装甲は、悪の幹部に見えるのは仕方がない。

 「こら、この黒い鎧のお兄さんはヒーローだよ! お礼を言わなきゃ駄目!」

 乗っていた先生が園児達をなだめるが、なかなか泣き止まない。

 「取り敢えず、皆さんは幼稚園の方までこちらで空輸しますから絶対にバスから降りないで下さい」

 園児に泣かれるのは諦めて、子供達を取り敢えず送り届ける事にする。

 ドラゴンの姿のジークリンデがゆっくりと降下し、クレーンゲームのアームのように壊されたドアを塞ぐように掴む。

 フリーデンも倒したホワイトゲッソーの首を持って、ジークリンデの背に飛び乗るとジークリンデが空を飛び採石場を後にした。


 幼稚園バスを幼稚園まで送り届ける。

 変身を解いた二人は、園児達と先生にお礼を言われた。

 ついでにフリーデンの姿を見て怖がったことを園児達に謝られた。


 そんな、一仕事を終えた帰り道。

 「ごめんね、子供達に怖がられちゃって」

 「リンちゃんは悪くないって」

 「私、たっちゃんに皆に受け入れられるヒーローになって欲しかったのに」

 「まあ、皆の前に俺はリンちゃんのヒーローだから♪」

 「たっちゃん、ありがとう♪」

 「こちらこそ♪ ま、早く賞金貰いに行こうぜ♪」

 「無駄遣いは駄目だからね? 連盟への報告とかも面倒だし」

 「連盟からまだ仕事貰えてないから、警察で貰う討伐証明書の控え送らないと」

 連盟と聞いて竜也は自分が所属している組織の事を思い出す。


 「それは、お父さんが自分付きの従騎士って事にしてるから」

 「ああ、だから細かい事は気にしなくて良いって言ってたんだ」

 「会長職って面倒らしいから、一人でも自分の戦力が欲しいみたい」

 「そっか、なら頑張って鍛えて味方できるようにするよ身内だし」

 そして、警察署に行き受付でヒーロー免許を見せると換金コーナーへ回された。

 

 その結果貰えた賞金は、安かった。

 「二人で二万円か、この前の蜘蛛より安かったな」

 「チュートリアルって組織自体が、安い案件だから税金引かれると安くなるね」

 「放置はできないが。学生がバイト感覚で倒せる怪人を出す悪の組織だからな」

 「何か闇がありそうで怖い組織ね、何度潰されても再興するらしいし」

 


 賞金と証明書類を貰い、二人は警察署を出ると竜也のスマホに着信が来ていた。

 「おおう、家の両親が外食するからリンちゃんと二人で食って来いって」

 「お義母様、良いタイミングね」

 「焼肉屋でも行こうか?」

 「う~ん? それよりスーパーで食材買って私の家ですき焼きしよ♪」

 「おっけ、んじゃ稼ぎは肉代にするか♪」

 「使うのは、二人共五千円までにしない?」

 「だな、じゃあそれで♪」

 そして二人はスーパーで、牛肉をごっそり購入しファフナー邸へ帰宅した。

 

 「じゃ、一緒に作ろうか♪」

 「待ってて貰っても良いんだけど、二人で共同作業ね♪」

 ファフナー邸の台所で協力して通常より大きめの鍋ですき焼きを作る二人。

 「追加のお肉は十分あるから、ガンガン食べようね♪」

 食卓に着き、大きな丼に白飯を山盛りにしたジークリンデが告げる。

 「……も、もしかして? たっちゃんは大食いな子って嫌いだった?」

 ジークリンデが、戸惑った顔をする。

 「いや、小学校の頃から見てるから! 遠足の時とかのリンちゃんのリュックの中が全部お弁当だったし!」

 「う、そう言えばそんな事もあったね! けど全部じゃないもん、あれはお弁当専用のリュックで水筒とかは別だったもん!」

 頬を膨らませて拗ねるジークリンデ。

 「俺、リンちゃんが飯食ってる所を見るの好きだから♪」

 彼女に対して素直な気持ちでフォローを入れる竜也。


 「……ま、またそうやって私を喜ばせて♪ ありがとう、じゃあいただきます♪」

 「俺もいただきます♪」

 「ジャンジャン、追加のお肉投入するよ~♪」

 「いや、豆腐や玉葱もしめじも食べなってば!」

 「え~? お肉食べなきゃすき焼きじゃない~っ!」

 「ちょ! 追加はある程度食べてからだって!」

 ドラゴンの食欲に圧倒されつつ、竜也はジークリンデにバランスよく食べさせようと頑張った。

 だが、竜也とジークリンデでは肉の消費量はジークリンデが圧倒的に上だった。

 「シメはうどんにするよ♪ あ、冷蔵庫に馬肉あったから馬肉うどんにするね♪」

 「お、おうそれは作り方わからないから待ってる」

 ジークリンデが作った馬肉うどんで、竜也は人生初の馬肉を堪能した。

 

 二人で皿洗いなどの片づけを済ませての居間での食休み。

 「そういや俺、普段より食い過ぎた気がするけど平気なのはなんでだろ?」

 「うん、ドラゴンと竜騎士はドラゴン側の消化能力もリンクしてるからね」

 「さらっと言ってるけど、今後は飯の量とか食い方も気を付けなきゃいけないな」

 こうして幼馴染カップルな二人は、仲睦まじく食事を楽しんだ。

 

 「それじゃあ、俺は帰るよ」

 「まって、今夜は家に泊まって行って♪」

 「え、風呂とか着替えとかどうすんだよ?」

 「大丈夫、買って来てあるから♪」

 「良いのか? いや婚約してるし問題はないのか?」

 「一人で住んでるとやっぱり少し寂しいから、お願い♪」

 「わかった、それじゃあお世話になります」

 「うん、全力でお世話するね♪」

 「いや、待ってくれ! 何か目を光らせて、手をワキワキ動してるのは何を企んでるんだ!」

 「ふっふっふ、じゅるり♪ 今夜は帰さないんだからね♪」

 そして竜也は、ジークリンデに襲撃され今度はジークリンデの家で彼女と二人で朝を迎える事になった。

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