第2話  竜騎士の力

「あは♪ たっちゃんの気持ちが伝わって来る~♪」

ジークリンデが左薬指の黒い鱗の指輪を見ながら喜ぶ。

「まんま結婚で初夜だったな」

竜也も自分の指に同じ指輪があるのを見つめる。

朝食と身支度を済ませた二人は、岸野家の隣であるファフナー邸の庭に来ていた。

「愛する人と結ばれて幸せ♪ 再来年には入籍ね、私がお嫁に行くから♪」

「え? 俺が婿でも構わないのに」

婿に行くような事をした身なので竜也が驚く。


「家は弟が継ぐから、岸野家はファフナー家の分家として新たな系譜を紡ぐのよ♪」

「騎士や系譜とかって、シミュレーションRPGみたいだな」

「日本のゲームって、教材に便利よね♪」

幼い頃のように他愛無く過ごす二人。

「じゃ、竜騎士の力を使ってみましょう♪」

「おう、竜結りゅうけつっ!」

竜也が気合を入れて叫ぶ!

竜結、様々な呼び方があるようだが

すると竜也の目が赤く光り、額には竜の頭を模した黒い模様が浮き上がる。

同時に、彼の頭上に赤い魔法陣が描かれて陣の中から竜を模した黒い甲冑が現れた。


甲冑は空中で分解し、パーツごとに竜也の手足へと装着され彼の姿を変えた。

「暗黒の竜騎士、フリーデン!」

竜也は頭の中に聞こえた名を叫ぶ。

かくして、世界に新たなるヒーロー暗黒の竜騎士フリーデンが産声を上げた。

「イエ~~~イッ♪ フリーデン! フリーデン!」

竜也の変身を見て、自分もドラゴン娘になりはしゃぐジークリンデ。

「……何か、兜とか肩鎧とかあちこちダークヒーローっぽいデザインだな」

変身した自分の姿を見て呟く竜也。


兜はドラゴンの頭を模したフルフェイスのヒーローマスク。

肩鎧はドラゴンの爪、首回りはドラゴンの尾、胴鎧は牙を剥いたドラゴンの顎が

モチーフかなと竜也は分析していた。


「良いじゃない、黒は私の鱗の色♪ そしてドイツらしい色、格好良い♪」

「ぶ! あなたは私の色に染まったのよ♪ って、心の中で言うなよ!」

「おっほっほ♪ 事実だもの、私達は番だもの♪」

竜也とジークリンデにはテレパシーのように心で会話ができるようだ。


「そういや、リンちゃんは本格的なドラゴンになれるの?」

自分はどうなんだと心の中で尋ねる竜也。

「ふっふっふ♪  私も行くよ♪」

ジークリンデがジャンプすると、瞬時に彼女の姿が人間から爬虫類を思わせる幻想生物である黒いドラゴンへと変化する。

「意外と、コンパクト?」

ドラゴンとなったジークリンデの全体サイズは軽自動車ほどであった。

「抑えてるの! 全力出したら戦隊ロボ位にはなれるから」

「マジで? でも、それを見る時ってデカイ敵が相手だよな」

「大丈夫、その時は私と合体して巨大ロボみたいになれるから♪」

「ドラゴンって、万能生物だな」

人間形態に戻ったジークリンデを見て、竜也は感心した。


「こうして二人であれこれやるのって、楽しい♪」

「俺も、これからはずっとだけどこの気持ちを忘れないようにしたいな」

「はぅ~~~♪ たっちゃん、そういう所が私を喜ばせる~♪」

「何だよ、照れくさいな♪」

変身したまま照れる竜也とデレるジークリンデ、二人は再会をしてから一日で立派なバカップルとなっていた。


「え? 何か近くで事件が起きてる光景が見えたんだけど?」

突然、フリーデンとなった竜也が叫ぶ。

「事件感知の機能、竜騎士の助けが要りそうな事件が起こると騎士とドラゴンに教えてくれるの! これが私達のデビュー戦よっ!」

ジークリンデも左目を抑えながら叫びドラゴンの姿になる。

フリーデンがジークリンデの背に飛び乗ると、ジークリンデは空へ飛び立った。


雄叫びを上がながら飛ぶジークリンデ、その背の上でフリーデンはこの雄叫びがいわゆるパトカーのサイレンと同様の物だと脳に知識を入れられていた。


現場上空に着いた二人、地上では商店街の往来で緑色の蜘蛛の怪人が顔にCと描かれた黒ずくめの戦闘員を率いて一般人を蜘蛛糸で絡めたり棒で叩いて暴れていた。

「ヒャッハー♪ 出て来いヒーロー!」

怪人が叫ぶ。

「そこまでだ、秘密結社チュートリアル!」

スタッと着地するフリーデン。

戦闘員の顔から、学校で学んだ知識を思い出して敵の組織名を当てる。

「あ~ん? 貴様こそ、どこの悪の組織の幹部だ~?」

フリーデンは、ダークヒーローっぽい見た目から怪人にヒーローではなく同業の悪者と誤認された。

「ふざけるな! 俺は暗黒の竜騎士フリーデン、お前達を止めに来たヒーローだ!」

ビシッと指さすフリーデン。

「は! ヒーローならまずは変身前からかかって来い!」

フリーデンを煽る怪人。

「そうか、なら望み通りやってやる!」

変身を解除し竜也に戻る。

「馬鹿が♪ 喰らえっ!」

蜘蛛の怪人が口から糸を吐き竜也を絡め取ると、ハンマーの如く振り回し竜也を電柱へと叩きつける。

「がはっ!」

竜騎士の力で強化された肉体により、重傷は避けられたが痛みが竜也の全身に走る。

「ほ~う? 流石はヒーローを名乗るだけあって頑丈だな、もう一回だ♪」

「喰らってやるのは一度だけだ、覚悟しろ!」

蜘蛛男がもう一度攻撃しようとした時、竜也の全身が黑い炎に包まれて彼を拘束する意図を焼き尽くした。

「な、何~? お、俺の糸が焼かれただとぅっ!」

自分の言葉に乗せられた馬鹿だから倒せる、と言う当てが外れたと感じる蜘蛛男。


「改めて勝負だ、竜結っ!」

怒りを燃やし鎧を纏いフリーデンとなる竜也。

「改めて名乗ろう! 暗黒の竜騎士フリーデン、貴様を倒すヒーローだ!」

全身から黒いオーラを放出し、再度名乗りを上げるフリーデン。

「お、お前っ! そのオーラは悪の幹部だろ? 襲え戦闘員ども抗争だ!」

「チュ、チュー!」

フリーデンの怒りに怯える蜘蛛男と、怯えながら襲い掛かる戦闘員。

「叩き伏せる!」

爆発的な脚力を生み出して駆け抜け、戦闘員だけを衝撃波で空の彼方まで吹き飛ばせば空にいるジークリンデがブレスを吐いて戦闘員を消滅させる。

「な、この化け物が!」

自分を棚上げして糸を玉にしてマシンガンの如く吐き出す蜘蛛男。

「無駄だ、この鎧にそんな物は効かない!」

糸玉はことごとく、フリーデンのオーラに焼き尽くされた。

「な、何だおまえは! 新人ヒーローの癖に強すぎるだろっ!」

襲った相手が、予想外の強敵だと気付き怯える蜘蛛男。

自分が竜の逆鱗に触れたと気付いた時には遅かった。

「……ぐはっ!」

蜘蛛男はフリーデンに貫手で胸を貫かれ、肌の色と同じ緑色の血を流して息絶えた。


怪人を倒すとジークリンデが人間の姿になり空から降りてくる。

「お疲れ様、この死体は私が見てるからフォローに行って来て♪」

「ああ、頼んだ♪ 大丈夫ですか~?」

変身を解いた竜也は、声掛けをしながら糸に絡まれた人達を助けたり救急車を呼んだりと救護に回った。

救護活動もひと段落した頃、警察が来たので竜也は再びフリーデンに変身した。

「俺達が怪人を退治しました、免許です」

二人がヒーロー免許を警察に見せて説明、警察のヒーロー課も来て検証が行われ

防犯カメラの映像から竜也の活動実績が認められ報酬が振り込まれる事になった。


「明細だと三万円か後で半分渡すよ、実質二人で倒したんだし」

「今回は良いよ、次からは一緒に倒して二人の報酬の半額を共同貯金で」

「わかった、そうしよう」

「あ、たっちゃんのヒーロー免許の書き換え! 国際免許に変えておいてってお父さんから言われてたんだった!」

「え? ヤバくない間に合う?」

「大丈夫、飛んで行けば免許センターまですぐだから♪」

ジークリンデが竜也を背負うと瞬時に黒いドラゴンへと変化して飛び上がった。

二人は、驚かれつつも郊外にあるヒーロー免許試験場へと到着。


竜也は自分のヒーロー免許を国内から国際免許へと変更ができた。

カテゴリー無しから、カテゴリー幻想へも書き換える事となった。

「たっちゃん、変更手数料立て替えた分は報酬から返してね♪」

「わかったよ、しっかりしてるなリンちゃん」

「ドラゴンは管財人としても優秀なのよ♪」

怪人を倒した報酬が、ゼロになる事にうなだれる竜也。

それとは反対に胸を張るジークリンデ。

ここに、暗黒の竜騎士フリーデンはヒーローとして一歩を踏み出した。


それぞれの自宅に戻った二人、玄関のチャイムが鳴りジークリンデの声が聞こえたので竜也が出る。

「たっちゃん、国際竜騎士連盟から色々届いたから持って来たよ」

ジークリンデは白い宅配ボックスを抱えていた。

「ありがとう、上がって夕飯食べてって」

「お邪魔します♪」

箱を受け取りジークリンデを家に上げる。

「いらっしゃい♪ 丁度テレビで二人の事がやってるわよ♪」

姫子が今から出て来てジークリンデを迎える。

テレビではニュースが流れていた。


「本日、新たなヒーローが誕生しました」

とキャスターが語り、竜也が変身して怪人と戦う様子が流れていた。

「暗黒の竜騎士フリーデン、ちょっとダークヒーロー入ってますね」

「敵からも悪の幹部呼ばわりされていて可哀想」

「番組に入って来た情報によりますと、ヨーロッパを中心に活動している竜騎士と呼ばれるヒーロー組織の新人ヒーローだそうです」

「格好良いですね、今後の活躍を楽しみにしましょう」

司会者やコメンテーターがワイワイ語るが概ね、好意的なコメントであった。

「おめでとう、だけど夢は叶えてからが本番よ♪」

赤飯や刺身などを並べた姫子が拳を握る。

「はい、肝に銘じますお義母様♪」

「ああ、そういや父さんはどこいったの?」

「お父さん、リンちゃんのお父さんに飲みに連れて行かれちゃったの」

呆れた表情でため息をつく姫子。

「え、父がこっちに来てたんですか? それは、家の父がごめんなさい」

謝るジークリンデ。

「良いのよ♪ 親戚になるんだし、男も女も付き合いはあるから」

姫子が笑う。


一方、竜也の父である応児は来日したジークリンデの父に連れられて居酒屋の個室でで向かい合っていた。

「さ~、飲もう♪ 私達の子供達の結婚と、デビュー戦の勝利だ♪」

応児のグラスへビールを継ぐのは高そうなスーツ姿の金髪の白人男性。

「クラウス、テンション高すぎだよわかるけど♪」

「酒の勢いもあるがテンションも上がるだろ♪ 親友同士の子供達が結ばれて、ヒーローとしてデビューしたんだこれで孫ができてたら大宴会さ♪」

のっけからハイテンションなジークリンデの父、クラウス・フォン・ファフナー。

「ああ、俺も嬉しすぎるよ早いなとは思うけどめでたい♪」

継がれたビールを飲む応児、こちらは静かに喜ぶ。

「竜也君の面倒は任せてくれ、悪いようにはしない♪」

「そこは信じて任せるよ、君は良い奴だしな連盟会長」

クラウスにビールを継ぐ応児。

「はっはっは、ありがとうお前こそ良い奴だ我が友よ♪」

そして二人で乾杯する父親達。


竜也とジークリンデの幸先は良いスタートとなった。

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