あいつと彼女

バブみ道日丿宮組

お題:彼女が愛した処刑人 制限時間:15分


あいつと彼女

 彼女が恋したのは、あいつだった。

 僕ではなくあいつ。

 それを知ったとき、僕は憎悪の念に囚われた。

 結果として、人を殺すことはしななかったものの。山の動物が絶滅するぐらいには狩りを行った。死体にあいつの写真を貼って、何度も何度も何度も刺し、そして焼いた。異臭に鼻をやられそうにまで肉を粉々にした。

 それだけやっても、やはり憎悪の念は消えなかった。

 忘れようと思った。

 けれど、忘れることができるならば、こんなことにはないとも同時に思った。

 

 そうして、数週間が経過するとーー。


 あいつは逮捕された。

 なんでも人を処刑と題した殺人としたという。

 馬鹿なやつだ。

 そんなことをするくらいなら、自分の首でも吊ってくれたほうが僕の腹の虫がおさまるであろう。

 その処刑は、事件として取り上げられたこともあって、マスコミが大学に押し寄せてきた。誰もがあいつの話を聞きたがった。いい気分はしなかった。あいつは嫌いだがどうであったかどうかなんてものは憎しみでしかない。素直にそう答えるわけにもいくまい。

 もちろん、大学側が対応しないわけにもいかず警備員により止められる、あるいは追い出される、警察を呼ばれるなどの対応があった……。

 なんにしても、これでライバルがいなくなったと思った。殺人犯と、動物殺し。選ぶのはどっちかなんてものは決まってるようなものだった。

 けれど、けれども、彼女はあいつを嫌いになることはなかった。

 何度も面会しにいってたと、話を聞かされた。

 一緒に行かないかとまでも言われたが、僕は殺人犯に会う気はさらさらなかった。ただでさえ、嫌悪してる相手をガラス越しに、見放した目で見るのだ。気分はいいかもしれないが、僕の感情が彼女に呼び込まれるのは決していいことではない。

 だから、相槌をうっても、行くとはいわなかった。

 どうせ死刑になるのだから、構う必要なんてないだろうと思ってたから。

 それから裁判が始まり、あいつは死刑が確定した。

 彼女は泣いた。

 僕の部屋でえんえんと泣いた。

 その悲しみを解き放つべく、僕は彼女を犯した。彼女は拒まなかった。

 けれども、やれることは限られてた。

 僕にはついてるものはついてない。彼女を頂に行かせたとしても、僕自身がいくことはないのだから。

 そういう意味では、あいつが羨ましかった。

 あの太い棒きれがほしいと思ってしまった。

 でも、それは無理な話。そう無理なんだ。

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あいつと彼女 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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