兄貴

バブみ道日丿宮組

お題:疲れた弔い 制限時間:15分


兄貴

 生きてる中でーーチャイムが鳴ったことはあるだろうか。

 すべての人がおそらく『はい』と間違いなく答えるだろう。

 宅急便を受け取らない人はいない。

 もしかすると……通販をしなければ鳴ることはないこともないかもしれないがそれでも誰かが尋ねてくることはあるだろう。


 それが起きたのは正月を迎えた次の日。


 ピンポーンというチャイムが深夜1時に鳴り響いた。

『こんな時間に一体誰が?』と、レポートの添削を一旦中断。

「……」

 玄関の扉を開けて、左右を確認しても誰もいなかった。

 人の痕跡すらない。

 故障かなと、部屋に戻り、作業に戻ると数分後にはまたチャイムが鳴った。

 今度こそは、と玄関の扉をあけるとやはり誰もいない。

 何のいたずらだろうかと、数秒考えて、答えが出た。

 きっと天国に行く前に兄貴がやってきたのだと。

 葬式にも戻らなかった自分にお別れをいいにきたのだと。

「……お疲れ様」

 次のチャイムが鳴った時、玄関に腰を下ろして僕は弔いの言葉を述べた。

 本当であれば、最後の姿を見たかった。

 けれど、大学の重要なプレゼン会を休むわけにはいかなかった。なんで正月にやるのかと親は怒ってたが、そういう日程を組まれてるのだから仕方ないと諭した。

「……」

 しばらく座ってると、それ以降チャイムが鳴ることはなかった。

 このときは理解してなかったが、そもそも鳴ったチャイムの種類は玄関前にいることを示すタイプ。

 誰かが解錠しなければ、上がってこれない。

 そういうことを踏まえれば、兄貴がきたのは間違いないなかったということだ。

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兄貴 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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