第74話 家族の話
「なぁ、なぁ、遼ちゃん。これな、火事になったらどないすんのん?」
「え?火が出れば、スプリンクラーが作動するんじゃないんですかね?」
三嶋っちの問いかけに、適当に返答すると、彼女はケラケラと可笑しそうに笑う。
「ねぇ、三嶋っち。三嶋っちは、どうしてねぇちゃんに近づいたの?」
俺の放った言葉に、さっきまで可笑しそうに笑っていた彼女は、持っていたUSBメモリーを落としてしまった。
あれ……気づかれてないって思ってたんだな。自信家。
「俺さ、小さい頃から周りの環境に振り回されて育ってきたから、結構、勘鋭いの」
俺は、二へっと笑ってみせる。
「三嶋っち、研究所に入ったの最近なんでしょ?
あの、楢……何とかっていうイケメンの教授が、琉旺さんに話してたの聞いたんだ。
ねぇちゃんには、琉旺さんのコネが欲しいって言ったんでしょう?
でも、琉旺さんには何にも言わないよね?
なんか色々しっくりこなくて。教えて欲しいな」
彼女は俺の顔を暫く見ていたけど、キュッと眉を八の字にすると唇を引き結んだ。
「あの……ごめんな。
私、陽菜子ちゃんには言うてないねんけど…………竜家の血筋やねん。
とりあえず、陽菜子ちゃんには黙っといて、琉旺さんと近づけたらそれでええかと思てたから。
………家は、四代前までは竜家の末端で、仕事も竜家の関係の仕事をしてたらしい。
せやけど、何かの理由で、竜家からは出てしもたのよ」
三嶋っちは、ぎゅっと手を握り締めながら話をする。
俺は、作業を進めながらそれを聞く。
「琉旺さんのコネが欲しいのは本当のことやねん。
うち、あんまりお金が無くてな、けど、まだ下に三人弟がおんねん。
私の奨学金の返済もあるし……」
そこまで、話すと、彼女は落としたUSBメモリーを拾って作業を再開する。
「それで?ねぇちゃんに近づいて、琉旺さんとお近づきになるって計画?」
「うん。………とりあえず、竜家に戻してもらえんかと思っててん。
私も、竜家の中の関連企業に就職出来へんかなとか思って」
なんだ……てっきり、琉旺さん自体を狙ってんのかと勘違いしてた……。
と、思っていたことは、黙っておく。
俺的には、ねぇちゃんに害がないなら、別に構わないんだ。
「それ、なんで琉旺さんに言わないの?
琉旺さんなら、結果どうするかは置いておいて、話くらいは聞いてくれるよ」
「うん……なんかなぁ、ズルしてるみたいやんかぁ?
陽菜子ちゃんにも適当に話したんがバレたら、心象悪いかなぁって思ったら、言い出せんくてな」
三嶋っちは、サクサク手を動かしながらへへへっと笑った。
「俺も、下に二人弟妹がいて、学校に行く金はお館様が出してくださったので、その気持ちは、分からなくもないです」
「へぇぇ、そうなんやぁ。一番下が妹さん?」
「ええ、そうです。甘やかしてしまって、ワガママで……」
地下施設のPCガシガシぶっ壊しながら、こんな会話が展開するとは、よもや思いもしなかったけど、距離感の近くなった俺たちは、さらに作業が捗った。
部屋を移動しながら、出来たらサーバー機を探して、そいつを叩きたいって話をしていたら、三嶋っちが急に立ち止まった。
「あれ?なんかあそこだけ、ドアの色が微妙に違うのは何でなんやろか?」
確かによーく見ると、その部屋だけほんの少しだけドアの色が違う。
「本当だ。元々は同じ色だったけど、このドアだけ古くて色が褪せてるような……」
「入ってみぃひん?」
「入ろう」
「入りましょう」
ムウさんは、唱子さんを探したいから、三嶋っちの言葉には積極的に賛成する。
積極的なのは良いことだ。
が、しかし…このドアをどうやって開けるのか?このドアも、暗証番号の認証キーが必要なタイプだ。
流石にここも、0000ってことはないだろう。
「それこそ、ムウさんの知ってるこのお屋敷で使われてる暗証番号を片っ端から入れていったらあかんの?」
「それでも良いけど、闇雲に入れて、何度も間違えてたらロックがかかる可能性もあるよ?」
「げぇぇぇ、ホンマに?それ、あかんな」
「そう、だからちょっと慎重になったほうが良いと思う」
俺と三嶋っちのやりとりを聞き流しながら、扉とテンキーを睨みつけていたムウさんが、徐にドアの下まで行くと、テンキーに入力し始めた。
ピピピピ……………ピーー
カシャン
あれ?若しかして開いた?
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