第13章 王子 戦う
第57話 天井裏 遁走劇
バタバタとうるさい足音を立てて、数人の男達がやってきた。
「おい!いないぞ!どこいった?」
「探せ!」
下から、男達が怒鳴る声が聞こえる。
「陽菜子、ここから出るぞ。良いか、俺の歩いた後をついて来て」
私は、コクコク頭を振ると、琉旺さんの後をソロソロと歩く。
彼は、私の手を握って、私がついて来れるだろう最速のスピードで歩き始めた。
天井の板は、ミシミシと音を立てているけれど、今のところ抜けることはない。
薄暗い中、どこに向かっているのか、よく分からないまま、兎に角、琉旺さんに手を引かれて、先を急ぐ。
「おい、天井の通風孔が空いてるぞ。あそこから、上に逃げたんじゃないか?」
しまった……。キチンと、通風孔の蓋を閉めておくべきだった。
「誰か、上がってみろ!」
下では、上に上がるための椅子か脚立でも用意しているのか、ガチャ、ガチャンという金属同士が当たる音が聞こえてくる。
琉旺さんは、私の手を、更にギュッと握ると歩くスピードを早めた。
どうにか、転ばないように、必死で足を動かして琉旺さんの後を追いかける。
そんな私たちを、光が照らす。後から追いかけてきた奴らの懐中電灯が照らしたのだ。
「いたぞ!2人いる。仲間か?」
「追え!逃すな!」
何人いるんだろう?怖くて後ろを振り向けない。緊張と、焦りで喉が張り付く。どんどん足音が近づいてくる。
琉旺さんは、私の手をグイグイ引っ張って、どんどんスピードを上げて、今では引きずるように走っている。
私は、日頃の運動不足も相まって、とうとう足がもつれて、そのまま天井の板の上に転んでしまった。
ドーンっという音と、ミシミシと板が軋む派手な音がする。
「陽菜子!」
繋いでいた手が、転んだ拍子に外れる。
琉旺さんはすぐに戻ってきて、私を抱き起してくれたけど、追いかけて来た男達に囲まれてしまった。
どうしよう……。追い詰められて、泣きそうになった私の耳に、微かにだけれど、聞き覚えのある声が聞こえた。
「……どこ……たんだ………、……から、あれ…………に……」
言葉の内容は、さっぱり分からないけれど、遼ちゃんの声だ。
「え………うの?……も…………さん……いてる………」
三嶋さんの声も聞こえる。一か八かだ!私は、立ち上がると、その場で飛び上がった。
「琉旺さん、飛んで!下に降りよう!」
琉旺さんは、何言ってるんだ?って顔をしたけれど、流石、日頃から訓練している人は違うのか、反応が早い。
すぐさま足を振り下ろす。薄い天井の板に、飛び上がって全体重を乗せた私が着地するのと、琉旺さんの振り上げた足が板にめり込むのは、ほぼ同時だった。
バシン!ミシ、メリメリメリ…………ビシビシ、バリーーーーン
私たちの足元の天井板は、衝撃を受けて、見事に割れた。
琉旺さんは、落ちる時に咄嗟に、私を覆うように抱きしめてくれる。
そのまま周囲の板ごと、追いかけて来ていた男達も一緒に巻き込んで、下に向かって落ちた。
ドスーンとも、ゴスーンとも聞こえる大きな音を立てて、天井ごと落ちた私達は、モウモウと巻き上がる木屑と、埃の向こうに、遼太と、三嶋さん、ムウさんに、シュウちゃんまでいるのが見えた。
皆を見つけて、ホッとしたのも束の間、一緒に落ちてきた男達に、一瞬にして囲まれてしまった。
「陽菜子、俺から離れるな!」
「琉旺さん……、怪我してないですか?」
私は、男達に囲まれたことよりも、琉旺さんの方が心配だった。
落ちる時に、私を抱きしめて落ちたために、琉旺さんは私の下敷きになってしまったからだ。
「うん……ちょっとシャツが破れたくらい。鍛えてるから、どうにか大丈夫」
琉旺さんは、チラリとこっちを見て、この場の空気に、全くそぐわないような笑顔で、フンワリ笑った。
あれれ?私、どうしちゃったんだろう?何だか胸がドキドキする……。やっぱり、心臓が悪いのかもしれない。
家に帰ったら、早めに病院で検査を受けよう。
そんなことを考えながら、ぼんやり琉旺さんを見つめていると、周りを取り囲んでいた奴らが、琉旺さんに飛びかかってきた。
琉旺さんは、私を背後に庇いながら、男に回し蹴りをお見舞いしている。
シュウちゃんと、ムウさんも参戦して、みんなが暴れるもんだから、一旦落ち着いていた埃や木屑も舞い上がって、視界が悪くなり大混乱だ。
琉旺さんが、男の腹を蹴るドスっという鈍い音や、シュウちゃんが、殴りつけるガスっという鈍い音、ムウさんが足払いをして、男が倒れるドスンという音が響く。
映画やドラマのように派手な音じゃ無いけれど、鈍いけれど人間を殴るとくぐもった様な音がするんだなぁと、琉旺さんの背後で、周りの様子を確認しながら、脳が現実逃避をする。
「ねぇちゃん、ボーッとしてないで、こっち」
遼ちゃんに声をかけられて、手を引っ張られる。男達が、乱闘をしている場所から、引っ張り出してくれる。
三人の邪魔にならないように、なるべく隅の方によっていると、リーダー格の男が声を張り上げる。
「応援、呼べ!」
それを聞いた別の男は、腕にしていた通信式だろうデバイスを操作した。
そうして、物の数分で私たちは、応援だろうワラワラとやってきた男達に、再び取り囲まれてしまったのだ……。
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