第44話 武器とは、ゴルフのクラブやノコギリです
まぁまず間違いなく、竜家の関係者だろう。
誰だか知らないが、自分は名乗りもしないで、いきなり人の名前を聞くなんて、私の礼儀に反する。
つまり、ろくな野郎じゃない。
もう、自分の知り合い以外に、名前を聞かれたら、浦 嶋子ってことにすることに決定した。
「ふん、そうか。
浦さん、今日、お宅にお邪魔したいんだが、構わないかね?」
老紳士は、私が、雛形だろうと浦だろうと、何の問題もないようで、家に来たいと曰う。
「………何処のどなたか存じ上げない方を、自分の家にお招きはできません」
「おお………わしは名乗ってなかったかな?
竜凪
琉旺さんのおじい様?
……何となく、つい今しがた自分の頭でどこかでこの人に通ずるDNAをお持ちの方を見たことがあるなぁと思ったのを打ち消す。
いやいや、本当にそうかどうか分かったもんではない。
『人を見たら泥棒と思え』だ。
まぁ、こんないかにもお金持ちですって格好の人を泥棒とは思わないけど。
そもそも、私のことを待ち伏せしていないで、琉旺さんに直接連絡すればいい話だ。
それを、したのか、していないのか知らないが、いきなり初対面の私に、話しかけてくるということは、つまり、そういうことなのだろうと解釈した。
「そうですか。さようなら、ご機嫌よう」
私は、挨拶をすると、そのままスルーした。
自称、琉旺さんのおじい様の横を通り抜けようとした時、おじい様に手を取られた。
おいくつなのかはわからないけれど、本当に琉旺さんのおじい様だとすると、80歳以上なのではないかと思われる。
とてもそんなお歳の人の力とは思えずに、少し驚いた。
それでも、今の私にとって、この人は知らない人に他ならない。
「キャーーーーーー、キャーーーーーキャーーーーー」
この、キャーーーーーの下り、今月で2回目だな……。
そう頭の中で思いながら、躊躇なくキャーキャー言っておいた。
だって、不審者だもの。
そうしたら、4軒向こうの我が家から、派手に引き戸の開く音がして、琉旺さんが飛び出てきた。
琉旺さんに続いて、シュウちゃんも派手な音を立てて飛び出してくる。
家の玄関扉大丈夫かな?古い我が家の、鞭打たれた引き戸を心配する。
「陽菜子!!」
私の名前を叫びながら、猛ダッシュで近くまでやってきた琉旺さんも、私の手を掴んでいる人を認識すると、急にスピードダウンした。
「じい様……」
「ラァさま」
シュウちゃんは、おじい様に頭を下げた。
これで、琉旺さんのおじい様であることは確定だろう。
琉旺さんは、素早くおじい様から私を引き剥がすと、腕の中に囲う。
私は、琉旺さんが裸足なのを見て、そんなに心配してくれたんだなと、ちょっと嬉しくなった。
「何だ?なんだ?」
「どうした?何があった?」
ご近所さんたちが私の悲鳴を聞きつけて、ワラワラと家の中から出てくる。
各自、布団叩きだとか、靴べらだとかの武器を携帯している。
抜かりないな。でもそれじゃあ、勝てないけど……。
みんな、子供の頃からの付き合いで、私が、ちょっとばかし変わった趣味を持っているのも知っているし、家の事情も理解してくれている人たちばかりだ。
「あんた、何があったんだい?」
「さっきの悲鳴、陽菜子ちゃんじゃないのかい?」
おじさんたちに続いて、おばさんたちも出てきた。
今度は、ゴルフのクラブや、ノコギリを持ってきた。
女って、凄いな。それなら勝てるかも……。
「お騒がせしてすみません。祖父が、名乗りもせずに、陽菜子の手を掴んでしまったようで……。
それで、びっくりした陽菜子が悲鳴をあげてしまって……」
琉旺さんが、説明しながらみんなに頭を下げた。
「なんだ、琉旺さんじゃないの。今日も、いい男だね。」
「琉旺さんところの爺さんが、陽菜子ちゃんの腕を掴んで、驚かせちゃったんだってよ」
琉旺さんは、いつの間にかご近所のおじさん、おばさんたちとも仲良くなっていたようで、みんな琉旺さんを信用して、引き下がってくれている。
それでも、帰り際には、
「陽菜子ちゃん、なんかあったらいつでも言いなよ」
と、声をかけて帰っていく。
ありがたいな。久々に、他人様が有難いと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます