第14話 もちろん 大好きです
部屋に入って、少し冷静になると、大人気ないことをしちゃったなぁと後悔が押し寄せる。
言うだけ言って、逃げるだなんて……、幾ら経験値が低くてもしちゃいけないことだった。
戻って、ちゃんと謝ったほうがいいだろうな。
けれど、意気地のない私は部屋の中をぐるぐる、ぐるぐる、毛足の長い高級カーペットがすり減ってしまう勢いで歩き回る。
まるで、お腹の空いたクマのようだ。
いや、本当にお腹がすいた……。
お昼を食べる前に逃げてしまったから空腹だ。
気がつくと、もうとうに3時を過ぎている。
シュウちゃんのご飯を作らなきゃいけない。ついでに、何か摘もう。
そう思ってこっそりとキッチンを覗くと、琉旺さんが待ち構えていた!!
私は、咄嗟に逃げようとした。
「陽菜子、待て!話がしたい。お前……、シュウが好きなのか?」
琉旺さんに呼び止められて足を止める。
なぜか、琉旺さんの中では、私はシュウちゃんが好きってことになっているようだ。
私が、トカゲちゃんが好きだと言って逃げたからか?
「……はい。まぁ、好きですね」
「…………え………」
そう返ってくるとは思わなかったのか、ショックを受けているようだ。
「そりゃぁ……、もちろん大好きです。シュウちゃんはトカゲちゃんですから。
しかも、オオトカゲ!希少種!
なかなか、どこででもお目にかかれる機会のないシュウちゃんには、メロメロですね。
そもそも私は、爬虫類は好きなんですが、特にトカゲが好きでして、彼らの美しい鱗や、瞼がかかって少し眠たげに見える金色の瞳。
のそりのそりと歩く姿や、鋭い爪にも興奮を覚えます!」
胸を張って、トカゲ愛を語った私を、琉旺さんは頬をピクピクさせながら見ている。
暫く、そのまま固まっていた琉旺さんだけど、恐る恐る口を開いた。
「それって、シュウが好きと言うよりは、トカゲが好きなんじゃ?」
「え?だって、シュウちゃんは、そのトカゲじゃないですか」
「そう………そうか。そうだな」
「ところで、琉旺さん。さっきは逃げちゃって……、すみませんでした。」
私の心の中は、罪悪感がチリチリと小さな火花をあげている。
琉旺さんは、フウっと息を吐く。
「………いや、俺の方こそ、いきなり過ぎた。
俺、色々と焦っちゃって。あの後、シュウに怒られた。
陽菜子の気持ちを確かめてから、徐々に近づくべきだったんだな。
すまん。もう、陽菜子が嫌がることをしないから、逃げないでくれ」
琉旺さんにそう言われて、壊れた首振り人形みたいに、コクコク頭を振って頷いた私は、ようやくシュウちゃんの晩ごはんに取り掛かった。
皆んなで机を取り囲んで、晩御飯を食べる。
シュウちゃんは、低いテーブルを用意して、その上に平皿に並べたおかずを上品に食べている。
オオトカゲなのに、とてもお行儀がいい。(まぁ、一時的にトカゲになってるだけなんだけど)
琉旺さんも、私が作ったご飯を食べてくれている。
お昼ご飯も、綺麗に食べてくれたようだ。
今まで、遼ちゃんくらいにしかご飯を作ってあげた経験がないけれど、琉旺さんも、シュウちゃんも美味しいって言ってくれて、心が満たされた気分になった。
「琉旺さんはどうして、ルゥって呼ばれてるんですか?」
疑問に思っていたことを聞いてみた。
「竜家の人間は、そもそも短い名前でずっと呼び合っていた。
だから竜家の中じゃ、ルゥが正当な名前なんだよ。
だけど、日本国籍なのに、ルゥだけじゃ不便なこともあるだろう?だから、琉旺って名前にしてるんだよ」
シュウちゃんは、琉旺さんの側近で、小さい頃から、いつもそばにいるらしい。
シュウちゃん曰く、琉は、リュウとも読む。
旺は、そのまま王。竜の王という意味だと教えてくれた。
「じゃあ、琉旺さんが竜家の中で一番偉いんですか?」
「そうですね。正確には、No.2です。
ルゥさまは、次期王です。
現在は、ルゥさまのお爺さまが、王を務めていらっしゃいます。
竜家は現在、竜凪、竜口、竜崎と三家に分かれていますが、経済活動はそれぞれの家で個々に自由に行っています。
しかし、竜家に関わる重大事案が起こった際には、三家のうちで一番権力を持っている王が決定します。
三家は、その王に従い力を合わせることになっています。
王は、三家のうちで一番力を持つものが選ばれます。
王の証に、体には消えない鱗が現れます。
鱗が現れる時期は様々ですが、ルゥさまは、物心ついた頃には既に、鱗が現れていました」
そっか、琉旺さんは、色んなものを背負ってるんだな。
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