21話 強くなるために

「とりあえず……1戦目は私の勝ちで良いか?」


 玄関を出ると家の前には銀髪の天使がいた。

 いや、それよりも……


「……!? アリス!! 大丈夫か!!」


 アリスは家の前で倒れていた。

 コンクリートの床はひびが入っていてかなりの衝撃で叩きつけられたのがわかる。


 

「……お兄さん!? ってことは私、家の前まで投げ飛ばされたのね」


 幸いにもアリスに外傷はなく、ピンピンしている。

 だがなぜかびしょ濡れだ。


「よかった……平気みたいだね」

「ありがとう、お兄さん」


 俺はアリスを立たせ目の前の天使?を改めて見る。


 たしかにアリスを投げ飛ばし、怪我をさせた明らかな敵なのに、謎の安心感がするのは気のせいだろうか。


「お前は……敵なのか?」

「……」


 返答がない。


「陽太さん!! 後ろ!!」


 不意にマリンが叫ぶ

「敵であって味方であっても、わからないうちは警戒を解くな」

「!!」


 背後から急に声が聞こえた時にはもう遅かった。


 俺は見えない衝撃波に吹き飛ばされる。

「"リャーマ"!!」


 マリンは威力の弱い魔法を出し、すぐ俺のところへ駆けつけようとするが一瞬で目の前に現れた銀髪の天使により、謎の衝撃波で吹き飛ばされる。


「詠唱短縮か……判断も早く、正しいが威力が弱すぎる」


 強すぎる……アリスは冷静に考えても勝てる方法が見つからなかった。

 それよりもどうやってみんなを逃そうかを考えている。


「……なんだもう終わりか? まぁ仕方がないか」


 銀髪の天使はふぅ……と息をつくと、手を前に出し

「初級転移魔法"リン・トラスパ"」


 すると、飛ばされていったはずの陽太とマリンがその場に怪我もなく現れる。


「あれ……俺飛ばされて……」

「私も……」


「転移魔法は便利だから何かしら覚えておいた方がいいぞ」


 陽太を含め3人は突然の助言にポカンとしている。


「あぁ……そういえば私が敵なのか気になっていたな。いいだろう教えてやる」


 羽をしまい、ひびの割れたコンクリートの上に立ち


「私の名前はモリア。お前たちの味方だ。今はそれだけ覚えてくれればいい」


「味方がどうして攻撃してくるんだよ」


「ふむ。私はお前たちの戦闘をずっと見てきた。ラピッドタートルやスケルトン、2級魔族リリとの戦いだったりな」


「そこまで知っているのか……」


「あぁ、今までの戦いは基本お前たちよりも強いもので勝ち目のないものが多い。だがなぜ今生きてここにいるかわかるか?」


「……」


 たしかにそうだ。

 今までの敵は誰もが強く一歩間違えれば死ぬ場面が多かった。


「運……だな。それしか言いようがないよ。別に誰か味方が強いわけでもないし、相手が油断してたわけでもない。ただ偶然に偶然が重なってなんとか生き延びている、それだけだ」


 別に俺は自分のことを強いと思ったことはない……がここまで直接的に言ってくると割とショックだ。


「だから私はお前らがこの空間にいる時は稽古をつけてやることにした」


「……? お前にはなんのメリットがあるんだよ」


「モリアと呼べ。そうだな……メリットか、面白そうだというのと、あとは私は消えたくない。それだけだな」


「消えたくない……? どういう意味だ」


「さぁな、それはいずれわかるよ。鈴木陽太」


「俺の名前まで知っているのか」


「お前のことはお前並みに知っている程度だ。それよりも今の現状を話しておくぞ……ここはお前らもわかっての通り1級魔族ザラによる魔法で作られた空間。だがそのベースはお前たちの記憶だ。だからここは記憶の世界と思っていい」


 そこまでは俺たちもわかる範囲だ。


「この空間が解放されるのはおよそ3週間後、今が9月16日だから10月7日前後だな」


 今は16日だったのか……確かサンリスタの国王によると魔族が日本への攻撃を始めるのが12月23日だったかな……10月解放されたとしてそこからゾル王国の王子に会うまで秘密のルートを使ったとしても

結構ロスになってしまう。


「まぁ今外が騒がしいからすぐ封印が解けるかもしれないがな」


「騒がしい……? 何かが起きてるのか?」


「詳しくはわからぬが、おそらくお前たちと一緒にいた仲間、ソニアやディグミアによるものだろう」


 ソニア……無事だったんだな。

 それだけでとても安心する。


「今はいつ解けるか分からない状態だ。ちなみに内側から解くのは不可能だ。ここでは何しても無駄だ。だからお前たちはこの期間、私の稽古を受けるほか選択肢はない。覚悟しとけ」


 この日からモリアによる厳しい?稽古が始まった。

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