2章前半 ゾル王国へ
1話 出発と再会
・9月12日・ 朝 ……サンリスタ城下町入り口付近……
「陽にぃ……行っちゃうの?」
「別に悲しくなんてねぇけど……まぁ、でもいなくならないでほしいっていうか……」
「もう……アランは素直じゃないなぁ……」
俺は国王の命により、魔王討伐の旅へ向かおうとしていた。
ただ、仲良くなった子供達……キリエ、アラン、ブレインは俺が旅に出ないで欲しいと思っている。
理由は明白、寂しいからだな
「大丈夫だよ、少しの間だけだ……来年の3月頃には帰れる予定だよ、帰ってきたらいっぱい遊ぼう!」
今回の旅はかなり長期的なものだ。
まず緑の国ゾル王国を目指し、協力してくれる助っ人、ラルバと合流。
そのあとは魔の国マラダ王国向けて出発、そこで魔王を討伐、と言う流れだ。
大雑把に言うと簡単ですぐ終わりそうだが、実際はそうでもない。
まずゾル王国に行くためにはサンリスタ王国から南に約1ヶ月半もかかってしまう。
なぜか、それは砂漠があるからだ。
ゾル・ダマル砂漠を1ヶ月歩き、そしてジャングルが見えて来る。
そのゾルと呼ばれるジャングルの中にある王国がゾル王国だ。
ジャングルの中は迷いやすく、短くても半月はかかるらしい。
そのためサンリスタの国王が2週間開けたのは準備に時間がかかるからだったのだ。
「陽太様、もうそろそろです……」
門番の騎士が時間を見て、発言する。
なぜ、急ぐ必要があるのか……それはゾル・ダマル砂漠の特徴のせいだ。
ゾル・ダマル砂漠の特徴として、
灼熱地獄は毎日決まった時間に温度がものすごい早く急上昇するのだ。
普通の人間なら、歩くことすらできない時間、それが灼熱地獄だ。
なので、砂漠を行く時には必須アイテムがある。
それがデュビと呼ばれるものである。
自分の周りに水の結界を張ることができる、だが自分の魔力を少し使わなければ発動することができない。
少し説明が長くなってしまったが、砂漠を抜ける方法というのは、灼熱地獄が来るまで歩き続け、灼熱地獄が来たらデュビ、歩く、そして灼熱地獄が来たらデュビ、これを繰り返していく。
なので、なるべくデュビを消費しないようにするため早く出発し、少しでも早く着けるようにするのだ。
ちなみにデュビの量は30個。
小さいので持ち運びやすいね
「陽にぃ……また遊ぶ! 約束ね…あ、あとこれあげる」
「これは……小袋?」
「これ、お守り、私たちで一生懸命作ったから」
「そうだぞ! 喜べ!」
「僕も頑張りました」
3人で作ったのか……どれどれ……
小袋を開けると、小さい木の板が入っており……
「今見ないで!」
「えぇ……じゃあいつ開けていいんだよ……」
「ん、辛くなった時とか?」
長い旅だからな、辛くなることは何回もありそうだな
「まぁ……わかったよ。ありがとうな」
門番の騎士の目線が痛い……早く行かねばな
「ごめんもうそろそろ……」
「うん……お土産待ってるから」
「き、気をつけろよ」
「少しの別れですが、元気で!」
「おう! じゃあな!」
こうして俺はさんリスタ王国を出発した。
(アリスってこういうとき気を遣って黙ってるよな)
(まあね)
さて、ここからだ
とりあえず、南に歩き続ける。
(お兄さん、今回の旅は相当長い距離だけど、方向間違っていたらどうするの?)
(ふっふっふ、なんと国王からアイテムをいくつかもらっている)
(アイテム……それってデュビだけじゃなかったんだね)
(あぁ、確か……あれはアリスがお昼寝していたときだったな、そのときにもらった)
(なるほど、通りで初耳なわけだよ。それでどんなものをもらったの?)
(地図!)
(……地図って、それ持ってきて当たり前のやつじゃん……)
(まぁ、そう思うよな……でもこれはな、数量限定レアモノらしい! なんと、少し魔力を込めるだけで、自分の位置が分かる!)
(え、普通にすごい物じゃんお兄さん! そんなすごいものを国王様にもらったんだね!)
まぁ、魔王倒しに行くんだからこれくらい当然だよなぁ?
ていうかそれよりも乗り物くれよ
なんだよ、道中で強くなりながら行かないと魔王は倒せない! って、
……いや、これは甘えだな、強くなるにはいい方法だから、我慢だ……
***
俺たちは王国付近の平原を南方面に進んでいた。
ちなみに道中の魔物はアリスの部分憑依による魔法で消滅している。
練習したおかげか、魔力も増え、結構な数を打てる。
まだ魔力切れはなさそうだ。
(アリスは暑いとか寒いとか感じるのか?)
(ん? 感じるよ。 ちなみに、お兄さんの感覚モロでくるから)
まじか、なんかこう全てが見られているような感じがして恥ずかしいなぁ
(お、もうそろそろ砂漠前にある村が見えて来るぞ)
(あらほんと)
地図を見てみると、ゾル・ダマル砂漠と描かれている所の前に赤い滲みが見える。
これがおそらく俺たちの現在位置だろう。
だから、ここをまっすぐ歩いていれば……
(見えた!)
村を発見! もうそろそろ正午だ。少し村で時間を調節してから砂漠に入ろう。
ゾル・ダマル砂漠に起こる灼熱地獄は1日に3回起こる現象だ、
午前に1回、午後に2回、夜は灼熱地獄はないものの、砂漠の位置によって気温が違うらしい。
午後に2回、そのうちの最初の1回目は午後になりすぐくるらしい。
なのでこの最初の1回目が終わるまでは村に留まる予定だ。
(よしついた! 水浴びたい!)
ついた村の看板にはゾル・ダマル村と書かれてある。
(まぁ、その時間もあるだろうが、とりあえず情報収集だ。アリス、酒場に行くか)
(まぁ、しょうがないね……)
テンションが下がったアリスと共に酒場に行こうとするが、やはりこの場にはあまり人がいないのか、村自体に人が少ないように思える。
(こりゃ酒場も人がいるかわからねぇな)
(そう? 冒険者は結構いそうじゃない?)
まぁとりあえず入ってみれば分かるだろう。
ガランガラン
「あら、いらっしゃい」
ガヤガヤ
外の静かさとは別に中には沢山の冒険者がいた。
「お水、お願いします」
(えーなんかジュースが飲みたいー)
「あ、変更で……なんかジュースありますか?」
「そうですね、カカの実のジュースならありますよ」
「じゃあそれお願いします」
(やった! ありがとうお兄さん!)
まぁアリスも疲れただろうしな、少しくらいは気を緩めてもいいだろう。
……と、飲み物を待っていると、見知った顔が見える。
「あれは……おお! ソニアじゃないか! 久しぶりだな!」
そこにはナチルの森で世話になったソニアが1人でいた。
「お! 陽太じゃん! おひさ〜!」
「ナチルの森では世話になったな! 元気してたか?」
「そりゃあもう、ビンビンに元気だよ!」
「それは良かった……ナチルとはもうお別れしたのか?」
「……? ナチルって誰よ、そんな人会ったことないわ」
……なんか話が噛み合わないな
(アリス、ソニアは見ない間に頭がおかしくなったのか?)
(お兄さん、リスタの森でのこと、聞いてみて)
「おいおい、忘れたのかよ。リスタの森で俺とナチルとソニア3人でラピッドタートルを倒したじゃねぇか(倒したのはナチルだけど)」
「いやいや、2人だけだったよ。私と陽太の2人! 私が最後にトドメを刺したじゃない! もう! なんか私がおかしいみたいに言わないでよ!」
と、頬を膨らませているが……これは明らかにおかしいな
(アリスは、覚えているよな?)
(うん、そりゃあね)
でも明らかにおかしい。まるでソニアの記憶が書き変わったみたいになってしまっている。
俺はそんな中、掲示板に貼られた記事に目がいった。
(リスタ遺跡の崩壊!?)
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