第27話 約束は大事な人を守りたい時だけに破れ
入学式が前日に終わり、しょっぱなから授業がある北コルロ高校に通う生徒の俺は昨日約束されたとおり、俺の幼馴染の蘭と一緒に登校していた。
俺の高校生活の始まりにふさわしく学校中の桜は満開し、その枝葉を仄かなぬくもりを感じる南方からの風になびかせていた。
「…どうかな。」
蘭が無表情のまま俺の眼をのぞき込む。
この「…どうかな。」という言葉は蘭が今朝になって前髪を上げてきたことへの評価を聞いているのだろう。
「んー、悪くはないと思うぞ。ただ俺としては昔のほうがなじんでるからそっちのほうもいいと思うけどな。」
俺は昔から女子がかわいいかわいくないという基準をよく分らない男だった。
そのせいか男どもの下衆のきいた会話には付いていけず、それが今思えば俺と他人の関係が希薄になる原因だったのかもしれない。
そういう意味で言うと俺に唯一話しかけてきたあいつは他の人より、ませていたのかもしれないな。
だがそんな話は今となってはどうでもいい。
ただ俺は今の時点で過去の失敗談を生かせず前髪を上げたことで蘭はかわいくなったのか否かがわからないという状況なだけだ。
そんな俺にできることと言えば「昔のほうもなじみ深く良かったが今のでも悪くない」ということだけだ。
「…そう」
そういうと蘭はいつも通り無表情ではあるものの心持少し残念そうな顔をして前髪を戻した。
「うん、やっぱりそっちのほうが俺としては変に気取らないでいいね。」
それから俺たちはそれぞれのクラスに分かれた。
クラスに着いて席に座ると、後ろの席でサンドラがむすーっとしながら座っていた。
サンドラとはこの世界の勇者になる人物のことである。
「おいおい、どうした、何か嫌なことでもあったのか?」
「道中変な目線で見られたのよ。何よ、こっちが正義を守っているからっていいようにしてくれちゃって。覚えておきなさいよ。」
なるほど。どうやらこのクラスの優秀な諸君はどうやらもうこいつのうわさを広げているようだった。
噂、というのはこいつが自己紹介の時に言い放った衝撃的なことを言い放ったことだ。
こいつ、つまりサンドラは自己紹介の時に「私が来たからにはこのクラスでの悪事は断固として許さないわ。覚悟なさい。」と、いわば独裁宣言をしたのだった。
「そんなに道中変な目で見られるのが嫌ならあんな自己紹介しなければよかったじゃん」なんて言っても「あの時は称賛されていたし、迷える子羊を導くのが私の使命よ」の一点張りなんだろうな。
ここは適当に話を合わせておくか。
「そうか、それはつらかったな。お前の美貌にでも驚いたんじゃないか?」
俺はおちょくるような語勢でそういう。
「はぁ!?何言ってんの!?」
すると、あろうことかサンドラは過剰な反応を示した。
「ちょ!おま!馬鹿!声がでけぇよ!」
同時に俺は自分の失敗も悟る。
やっぱり社交性はある程度ないとだめだな。
「いや、でも確かにあいつらのあの目線って…」
それはそうと俺の言葉は馬耳東風、何か合点がいった様子になった直後、サンドラは教卓のほうへずんずんと進んでいき
「いい!皆!聞きなさい!皆は思春期だから私のそうゆうところが気になっていたのね!だからと言って怒りはしないわ!そういうのも受け入れてこその正義だからね!ただ道中は自分の身の危険にもっと注意しなさい!私に見とれているせいでけがされたら私も悲しいからね!」
と大声で言い放った。
まずい!
ドキドキしながら周りを見渡すと大半の人はきょとんとしていた。
ただ一人、サンドラは満々の笑みで決まったと言わんばかりのグッジョブを俺に出していたが。
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