陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました。

@sh1onm

前編

わたくしの夫はシャロン国の

第二王子のサミュエル様です。


わたくしの名前は、

アンジェリーナ・マキロンです。

実家は侯爵家で父が宰相を務めており、

陛下からの打診によって

幼い頃から婚約を結び

お互いが18歳の時に婚姻致しました。


結婚してから5年が経ちましたが、

未だに懐妊の兆しは見られず

宰相である父から

「子ども1人すら産めないとは情けない」と

王宮の中で顔を合わせる度に

責められる日々を過ごしています。


そもそも、懐妊する要素がないのです。

わたくしとサミュエル様は

俗に言う白い結婚なのですから。

幼い頃に婚約を結びましたが、

サミュエル様はわたくしに対して

愛情も友人以上の感情も生まれず

そのような行為には至っておりません。

王族に生まれたからには

世継ぎをもうける為に

未亡人により閨の手解きが行われますが、

サミュエル様は

愛する人以外との行為は決してしないと

手解きを拒否しておりました。

通常であれば第一王子の妻が子を産めば

第二王子の妻の子は何人でもいいのですが、

第一王子の妻は

第一子である女の子を出産後に病を患い

二度と子を産めない身体になったのでした。

この国では男児にのみ

王位継承権が認められている為、

第二王子の妻であるわたくしが

必ず男児を産まなければなりません。


しかし、陛下は

わたくしが懐妊しない事により

考えあぐねて重い腰を上げたようで

サミュエル様に対して

条件を出すことにしたと

わたくしにのみ打ち明けてくださいました。


「そなたが1年以内に懐妊しない場合、

そなたとサミュエルは離縁をし

サミュエルは新しい妃を迎えて

世継ぎを作ることとする。」


陛下がサミュエル様に出すという

条件を聞いた事により

わたくしの心は粉々に砕けました。


このままではサミュエル様は

妃を身篭らせる事も出来ない種無しだと

周囲の貴族から白い目で見られるでしょう。

サミュエル様からは愛されていませんが、

わたくしはサミュエル様を

心の底からお慕いしているのです。


今は愛されていなくても

これから先のことは誰にも分からないからと

婚約期間中よりもサミュエル様に対して

歩み寄る努力をしていたのですが

陛下に夫婦としての

終わりの期限を決められたことにより

それも無駄になってしまいました。

懐妊が分かるまでには3ヶ月がかかり、

懐妊した事を世に公にする期間である

安定期に入るまでは5ヶ月かかります。

よって、5ヶ月以内に行為に及んで

子を孕まなければいけないのです。


サミュエル様から愛されていない

わたくしがサミュエル様を

周囲の貴族の目から救う方法は

ただ一つだけだと思い立ちました。

それは…

事故を装って自死することです。

毒を飲んで自死したり

国から逃亡したりすると

サミュエル様が責められることになります。

わたくしが事故によりこの世を去れば

この国の慣習により王族でも

二年は喪に伏すことができます。

その間はたとえ陛下であっても

新しい妃を娶らせようとはしません。

わたくしという足枷が居なくなり

二年も自由にできる時間があれば

サミュエル様はきっと最愛の人を見つけて

その方と仲睦まじく愛を育み妃として娶り

世継ぎを産ませることができるでしょう。


愛する人のために自分の出来ることが

自死することだけだということに

強い悲しみと虚しさを抱きましたが、

サミュエル様はとても優しいお方なので

わたくしが傍に居ては

苦しい思いをさせてしまいます。

愛する人を苦しませるなど

わたくしには出来そうにありません。

しかし、欲張りなわたくしは

愚かな選択をしてしまいました。

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