118.
十時のチャイムが鳴り、休憩時間になった。いつもだったら
「
「わ、私も一緒に休憩したいです!」
「うわぁ、藤代さん大人気だねぇ」
右腕をがっちりと絡ませる
「一緒に休憩するから手離してよ。痛い」
「そんなに力入れてませんよぉ。こうしないとすぐどこか行きそうですもん、藤代さん」
「す、すみません……手離します……」
潔く足立さんは手を引いてくれた。どちらかと言えば北山さんに対して言ったんだけど、手を離すつもりはないらしい。
「双葉さんは北山さんと一緒のペアだったでしょ。引き取ってよ、動きにくいし」
「えー」
「待って、双葉さん。それは失礼じゃない⁉」
二人はさっきの実践でだいぶ打ち解けたようだ。双葉さんが私以外の年上に軽口を叩いているところを初めて見た。
「四人いるなら……テーブルがあるほうの休憩所行こうか。混んでそうだけど」
「だったら私が普段使ってるところ行きましょうよ! 全然人いませんよ!」
「そう? じゃあ、そこにしようか?」
得意気な北山さんに続き、第二棟の外へ出た。私と双葉さんが普段休憩している場所とは反対方向に向かって歩く。
「ここです! ほら、誰もいませんよ!」
「本当だ……」
北山さんに案内された場所は第三棟へと続く道の途中にある
「へぇ……この場所は知らなかった。藤代さん、知ってた?」
「いや、知らなかった。休憩所ってだいたい自分の職場に近いところを使うし、案外知らない場所のほうが多いかも」
確かにと同調するようにみんなが頷いた。何か用事がない限り、遠くの休憩所なんてまず使わない。
……ん? じゃあ、なんで北山さんはこの場所に……?
「え、なんですか? 藤代さん」
不思議に思って北山さんを見つめていたら、視線に気づかれてしまった。自分に話題を振られると思った北山さんは嬉しそうに私に続きを促した。
「北山さんのラインは第二棟の……ここから少し離れた場所にあるのに、どうやってここを見つけたのかなって」
「ああ、それは——」
「山木さんと仲良いね」
「そりゃあ、なんて言っても幼馴染ですし? 私たち」
「え、そうなんですか? 初めて知りました」
私以外は誰も知らなかったようで、みんな思い思いの反応をしている。私だって山木さんから聞いていなかったら同じような反応をしていた。
「そうなんですよー……って、藤代さんはそんなにびっくりしてませんね。ここまで私に興味がないとか泣いちゃいそう」
「いや、だって私は山木さんから聞いてたし」
「……いつの間に?」
「昨日の休憩時間に聞いちゃった」
どうやら山木さんは私に話したことを北山さんに言わなかったらしい。まさか私が知っているなんて思っていなかっただろう。彼女は目を見開き、驚いている。
「幼馴染っていうと、家も近かったりするんですか?」
「うん、家は隣同士だね」
「本当に幼馴染だ……。それで会社も一緒って……。北山さんと山木さんは付き合ってるんですか?」
足立さんはかなり踏み込んだ質問を繰り広げている。北山さんにとってタブーな話題じゃないと良いけど……。
「付き合ってないよ。残念ながら」
「そうですか……」
「残念ながらって……」
なんだか含みのある言い方だ。それじゃあまるで北山さんが山木さんのことを好きみたいじゃないか——
「好きなんですか?」
「好きだけど?」
私の疑問はわずか二秒で解消された。足立さんの質問は留まるところを知らない。さっきからヒヤヒヤしているのは私だけじゃないはず……と、信じたい。
「良いじゃないですか、お似合いですよ」
「本当に? 本当にそう思ってる? 双葉さん」
「思ってますよ。だって山木さんも北山さんのことをずっと気にかけてるし、きっと両想いなんだろうなーって」
「えっ⁉」
北山さんは誰よりも大きい声を上げ、慌てふためいている。いつだって余裕のある笑みを浮かべる彼女からは想像出来ない姿だ。
「え、それ本当? 双葉さんから見て、そう思う?」
「あ、休憩終わりだ。戻りましょー」
「ちょ、双葉さん! 待って! 仕事戻る前にそれだけ教えて!」
チャイムが鳴り、双葉さんは第二棟に戻ろうと歩き始めた。慌てて北山さんもその後を追う。残された私たちも二人に倣い、ゆっくりと歩き始めた。
「北山さんと双葉さん、だいぶ仲良くなりましたね」
「ね。今までほとんど話したことないって言ってたのに」
足立さんと話しながらふと気づいた。北山さんたちだけじゃない。私たちも初めて会った日よりは肩の力を抜いて話せている……と思う。
「北山さんがいると和むね。なんていうか……肩の力が抜ける?」
「私もそう思います。今日はすごく緊張してて、お腹が痛かったけど治りました!」
同じだ。私もリーダーに指名されてからずっと胃が痛かった。取付工程の問題点を探しながら何度お腹を押さえたことか。
「だいぶ楽になりました。この後も頑張りましょう!」
「そうだね。報告会まであと三日、よろしくね」
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