26.
「それぞれ見て回る?」
そんな
彩織は参考本や文庫本を見て回っているみたいだ。私は何を見ようかな。
ファッション雑誌、文庫本の新刊、漫画の新刊。本屋の入り口近くには人気の本が並ぶ。週刊売り上げランキングなんてものも掲示されている。
本好きってわけでもないし見たことがない、知らない本ばかりだ。
そのうちの一冊、群青色が特徴的な表紙の文庫本を手に取った。女子高生が主人公の青春小説みたいだ。近くに貼ってあるポップを見ると発売日はつい二日前。
パラパラとページをめくり、一枚の挿絵にたどり着いた。
「…………」
食い入るように見つめる。高校生の女の子が部屋の片隅で膝を抱えて泣いているシーン。少し前のページに戻ると母親と会話する場面があった。
教育虐待をする母親とそれに耐える少女。そんな関係性が読み取れた。
もう少し前のページに戻る。
母親からの無理難題に耐え、表面上は頷き良い子のふりをする。
でも心は泣いている。一人になった時、自分の部屋で静かに泣く少女。その少女が一人の男の子と出会うことで日常は変化し、徐々に母親との関係性も変化していく。そんなストーリーだった。
最後に裏表紙を見て本を棚に戻した。
どうにもこういう話は苦手だ。最後には報われる、救われる話だとしても。
この手の話は最後には母親を許すことになる。どれだけ物語の序盤でひどい仕打ちを受けようと、最後には許してしまう。
それが私には理解出来なかった。
復讐しようとまでは思わなくても、こんな簡単に許せるなんておかしい。許されるべきじゃない、と思う。だからこういう小説は、読めない。
新刊コーナーから離れ、本屋の奥へ歩く。
そうだ、もっと現実的な本を探そう。彩織みたいに美味しいご飯を作れるようになりたいから料理本とか。
改善チームになってパソコンを触るようになったから、コンピューター関連の本も良いな。
そう思っていろんな棚を見て回ったが手に取るほど気になるものがない。
手持ち無沙汰になり、仕方なく彩織を探して合流することにした。
「……」
見つけた。
「なんの本?」
「あれ、羚さんもう見終わっちゃった?」
今度は驚かさないように横から声をかけた。私の姿が横目で見えたからか、彩織は驚かずに顔を上げる。
「そんなに気になる本がなくて」
「そっかぁ、じゃあそろそろ他のお店、行く?」
「ううん、まだいいよ。彩織はなんの本見てたの?」
「これだよ」
持っていた雑誌のとあるページを見せてくれた。
「面接必勝法……?」
「求人少ないし、受けたら絶対受からないとって思って……」
彩織が持っていた本をパラパラとめくる。
面接時の服装、髪型、質問の受け答え、上手く自己PRするには。もはやバイト向けだけではなく就活向けですらある濃い内容が載っていた。
「バイトってこんな面接厳しかったっけ……?」
「志望動機くらいだと思うけど、どうせ就職する時にも役立つから見ておこうかなって」
私が今の会社に就職した時も面接を受けた。志望動機、高校時代の話、採用されたら会社にどう貢献していくか。確かに堅い質問をされた記憶がある。事前に学校で面接練習なんてものもあったはずだ。
「その本買うの?」
「ううん、学校の図書館に入れてもらう。申請出して、司書の先生が許可出せば買ってくれるよ」
なるほど。確かに学校の図書館に置いてもらえればお金をかけずにいつでも読める。それに彩織が通う
「……ケチって思った?」
「そんなことないよ。社会人ならともかく、学生はお金ないし。図書館みたいに利用できるものは利用しないと」
「なるべく自分のお金で買いたいんだけどね……」
「他の就職希望の生徒だってきっと読むだろうし、そんなに気にしなくて良いんじゃない?」
「そうだね……。これで私の用事は済んじゃったよ。そろそろ本屋出よう?」
「いいの? 他に見たい本ないの?」
「この本をチェックしに来ただけだから大丈夫だよ」
参考書コーナーを離れ、入り口を目指して歩く。
腕時計を見ると時刻は十三時を少し過ぎたばかり。さすがにそろそろお腹が空いてきた。
「彩織、昼ご飯どう——」
「あれ?
後ろから私を呼ぶ大きな声が聞こえて振り向く。一体誰だろう。
「えっ。ノセさん?」
「奇遇だね!」
前に野中さんとお邪魔したラインの班長、
「お疲れ様です……?」
白いワイシャツに黒いズボン。そして本屋のロゴが入ったエプロンをしている。その姿はまるで本屋の店員だ。
「あ、これ? ここの本屋、俺の家族が経営しててさぁ。今日と明日はただ働きだよ。なんでも急にバイトの子が辞めちゃったみたいで、人手が足りないみたい」
エプロンをぱたぱたとさせながらノセさんは言う。
それって——
「……あ、あの!」
「え、藤代さんの妹さん?」
「い、妹ではないです。すみません……」
「えっと、この子は近所の子です」
「一緒に買い物かな? 仲良いね!」
すっかり恐縮してしまっている彩織にノセさんは優しく話しかける。
「あの、もし人手が足りないんだったら……私を雇ってもらえませんか?」
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