015. ミリタリーユニット



 真理とは一体何か、それはその言葉を発した本人も分からなかった。

 真理が解る者とはこの世に一握りしかいないと言った。星の砂をすくおうともこぼれ落ちて行き、残るのはほんの僅か。


 真理を知らぬ彼はそれに憧れていたが、星には手が届かないと同じように、真理を知ることが出来ないことも同時に理解してしまった。


 その理由の一つとして、彼は魔術の有無を上げた。






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 潤とガルカはノックスからの説明を受けた。

 ダグラス・ダンヴァーズ、七十歳の男。元大学教授であり発表した研究結果は主に魔術や魔術師についてのことが多い。そして旧アメリカ軍及びガーディアンズに雇われていた時期がある。とある極秘作戦に参加していたが所属していた組織の解体を受けてからは足取りが掴めずにいたらしい。


 その極秘作戦の詳細はどこにもなく国連に唯一存在する資料とも言うべき報告書のみがそれについて説明していた。彼はその報告書の一文を二人の前で読み上げた。




 この作戦は世界の真理に近づく為のものと言っても差し支えない。これは世界がなぜこうなっているのか、こうなってしまったのか。その原因究明が主である。


 また、その仕組みを理解し我々のものとした時、我々は、軍は、人類は、どの方向へ歩むべきかも考えなければならないのかもしれない。




 哲学的で何を言っているか分からない、潤が抱いた最初の感想はそれだった。

 ガルカが報告書内で部隊と称したものや、報告書そのものを掘り下げるとノックスは答えた。


 二〇一〇年代まであった特殊部隊であるそこにはダグラス・ダンヴァーズは勿論、潤とガルカに馴染みの深い人間も所属していた上、ノックスも間接的に関わっていたと言う。


 ノックスは当時、部隊がどのような意志を持って動いていたかなど分かるはずもなく、末端の末端の仕事を請け負っていた。

 末端と称し行うのはいわゆる事務だった。その中でもノックスは部隊員たちの行動を推察していた。


 当時の部隊の中心になっていたのは主に三人。クライヴ・ヴァルケンシュタインとアライアス・レブサーブの名を聞いた時潤とガルカは心底驚いた。


 もう一人、ジルヴェスター・フリーレンという男を含め三人が同期として訓練校に在籍していた際に、隊長から直接スカウトを受けたらしいとノックスは他人から聞いていた。


 他にもホラーツ・エッフェンベルガーなどが所属していたらしく、隊長は彼を愛想が良く誰にも嫌われない立ち回りをすると評し窓口役を任せていた。


 ごく少数の部隊であったが、ジルヴェスター・フリーレンは作戦中に戦死。それ以外のメンバーは生存したものの、その後数年で部隊は解体。その中で行方不明になったのは当時の隊長とダグラス含め数名だと言う。


 だがノックス本人は、こんなことは何も知らないも同然だと言った。解体直前に別部隊に配属されたノックスは興味本位から今現在に至るまでこの部隊を調べていたところ、彼の名が挙がった。




 ノックスはその昔話に区切りをつけあらためて彼らに作戦の概要を説明した。


 ダグラス・ダンヴァーズは極秘作戦に関わっていた重大な男。彼を確保し極秘作戦の全貌を暴いた上で、彼が今行うかもしれない事象を阻止する。

 それを受け二人は敬礼と返事をした。


 そしてダグラスはもう一つ、彼らに用意しているものがあった。






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「君たちが、中将の言っていた……」


「はい!」


 堅苦しい敬礼を見ていると潤は過去の自分を思い出すようだった。誰かが自分に投げかけた言葉を今度は自分が放つ。


「楽にしてくれて構わない」


「いえ、ですが自分はこのような性分ですので」


「そ、そうか」


 だが潤の言葉は青年に通じなかった。我が強いその姿を見せる彼の横には一五〇センチほどの小柄な女性がいた。

 ガルカはどこか上の空の彼女へ話しかける。


「あなたも新しい隊員?」


「あ、はい~、そうなんですよ~」


 調子を狂わせられるような話し方の彼女にガルカはある意味で圧倒されていた。


「二人とも自己紹介を頼む」


 潤が目の前の新顔二人に促すと同じタイミングで口を開いた。


「自分は」「私は~」


 二人は思わず見合っていた。青年は目付きを悪くし隣にいる少女にさえ見える娘を睨みつける。

 そんなことを気にせず彼女は潤とガルカへ話し続ける。


「私は、モニカ・ターナーと申します、以後お見知りおきを~」


 戦場に似つかわしくないゆったりとした口調の彼女にガルカだけでなく、潤もまた驚かされていた。

 続けて横の男が話す。


「ルドルフ・ヘルザーン上等兵です、本日付でブラック・ハンターズに配属されました、よろしくお願いします」


 なんとも窮屈な挨拶だ。潤はこれ以上ないほど形式的な自己紹介をされてなんとも言えない気分になっていた。凍ったように次の言葉が出ない潤に代わってその場はガルカが取り仕切った。


「私たちのことは知ってる?」


「はい、資料で確認させて頂きました、櫻井准尉、ヒルレー曹長」


「私も見ました~」


 モニカと名乗った彼女がルドルフの発言に便乗するとルドルフは再びモニカを冷たい目で見る。

 仲が良くないことをすぐさま悟る潤とガルカだったがそこでは何も言わず話を進めた。


「二人とも、これがブラック・ハンターズとしての初陣だけど、これはとても重大な任務。ミスは命取りになるから心してかかってね」


「了解です!」


「ミスしたら、どうなるんですか~?」


 素朴な疑問をガルカにぶつけるモニカ、そのようなところに食いつく人がいると思わなかったのかガルカは焦るがその問いには別の人間が答えた。


「仲間の足を引っ張った上、死ぬリスクが増える。それくらい察しろターナー」


「あ~、ごめんねルドルフくん」


「っ……」


 ルドルフがあしらうように、上から目線で答えた。彼の上司の愛想はとてもいいが同僚、主にモニカへの態度はとてつもないほど大きいものだった。だがそんな彼の対応すらありがたがるモニカにルドルフは嫌悪にも似た表情を示していた。


 そのやり取りを見ていた潤の止まっていた口が動き出す。


「とにかくだ、二人とも準備は済んでいるな。これから行くのはピクニックでもなんでもない、自分たちの命を賭けた重大な任務だ、遊びは許されない。たとえ嫌いな奴と手を組むことになっても任務の前では無力だ」


「はい……」


「はーい」


「ではターゲットがいるとされるシカゴへ向かうぞ」


 潤はルドルフとモニカを加え、四人となったブラック・ハンターズに若干の不安を覚えつつも目的地への舵を切った。


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