004. コンタクト
そこからは簡単だった。
先の見えない事件だった今回の任務だったが、ゲレオンがいとも容易く犯人を見つけた。
もちろんその点についてはありがたいと思っていた潤は彼に感謝を述べたのち、直ぐに本部を後にした。
殺人鬼Z、セレス・シルバーヘインの足取りを掴むのは簡単だった。戦争が終わってからは国際連合加盟国の領地内には監視カメラが大量に設置された。
かつて監視カメラ大国とも呼ばれたイギリスの後押しや、ブレイジスの諜報員、スパイ対策としても利用され犯罪率も徐々に下がっている傾向にあった。
そのカメラを使って現在どこにいるのか、僅かに記録された写真と写る人間を照らし合わせてしらみ潰しに探していた。
警察組織はセレスの関与する事件に手を出さなかった、出せなかった。
魔術師相手、そして強大な力を持つ者となれば魔術を使えない人間が過半数を占める組織は身動きが取れない。手に入れた手柄に割に合わない犠牲を出すのが怖いのである。
相手が魔術師と分かっておきながらその事件に挑む者はそうそういない。
だからこそ国際連合によって作られた仮初の法を抜け出す存在である潤たちは重宝されるのだ。魔術師でありながら戦争を生き抜いた若者、たったそれだけの情報であらゆる任務が彼らのもとに流れてくる。
この任務もまた、世間という海を漂い流れ着いた漂流物であった。
そして三日という時が過ぎ去って遂にセレスの居場所をある程度絞ることが出来た。
「この写真の男を見ませんでしたか?」
潤は道端で通りがかった一般人に写真を見せ尋ねる。
都市部から少し離れたベッドタウン、ガルカと潤の二人はそこへ来ていた。
「いいや見てないよ、それにしてもアンタら随分と大荷物だな」
「旅行の待ち合わせでさ、この写真の男と会おうとしているんだけど中々会えなくてね。何せ連絡手段も持ち合わせていないから大変で……」
薄っぺらい嘘を重ねてセレスどころか自分たちの身分を隠す。大きなバッグの中には戦闘に必要な装備、銃や携行品の数々が入っている。
潤は厚みのある素材で出来た竹刀袋の中に刀を二本入れ、ガルカは組み立て式の槍を巨大なバッグに入れて何時でも戦えるようにしている。
「潤、そろそろ」
「ああ、じゃあまた、ありがとうお兄さん」
ガルカに急かされ通行人に礼を言いながら遠ざかり、道を歩き続けつつ潤は考え込む。
あの戦いから約二年、ブラック・ハンターズに入隊してからは既におよそ一年が経とうとしている。月日は思いのほか早く過ぎ去ってしまい、とある男女の結婚式以来、潤は以前まで共に戦った仲間とは連絡がとれていない。
ゲレオンに会った際に驚いたのも連絡が取れていない中での突然の再会だったからだ。嬉しさと同時に、常に非情かつ無慈悲な世界の中で彼の生存が確認出来たというだけで、安堵という気持ちも芽生えていたのだ。
ガルカは例外だ。彼女は潤の隣に常に居続け常に一緒に戦い続けた。潤の中では、その事実と存在は今までもこれからも普遍的なものであり、無くてはならないものだ。連絡などするまでもなく彼女はいて当たり前なのだ。
一年半ぶりのゲレオンとの再会に三日という時間が経っても嬉しさは残り続けていた。潤の中で他人の存在はこれ以上ないほど大事なものだからこそ、そんな当たり前のことが嬉しくて仕方が無い。
感傷に浸りたい気持ちもあるが、優先するべきは任務。流石に頭を切り替えようと、潤はふと現実に帰る。
「見つからないな」
「このままだったら埒が明かないんじゃない? 何か簡単に見つける方法を探さないと」
二人はセレスを見つけるにはどうしたらいいか話し合う。全てを欺く魔術師に対して刑事と同じ方法で探しても無理があると察したガルカと潤はもっと頼りになる何かを探さなければと考えていた。
「彼の自宅は?」
「子供時代に住んでいた家は既に別の人が入居してる、彼の両親は母方の実家に住んでいるそうだ」
まれに猟奇的な行動を起こすセレスに恐怖を覚えた親は家を他人に売り払い、三人で実家に移り住んでいたそうだ。そこではセレスは異常行動を起こすことは無かったので、セレスの親二人はその行動の原因は霊的何かだと思っていた。
やがて独り立ちし実家を出てからというものの、親はセレスの顔はそれ以降一切見ていないという。
「簡単に引き受けたはいいけど相当難しいね」
「ああ、俺もいつもみたいに蟻の巣見つけるくらいの感覚でいたけど今回は一筋縄じゃいかないね」
蟻は帰巣本能に基づいて自分の巣へと確実に帰る。体から出すフェロモンを頼りに匂いを伝って自分の巣の場所へ戻ることが出来る。そんな知識をたまたまもちあわせていた潤だったが、これが役に立つはずもないと思っていた。
「蟻みたいに出して欲しいもんだよ、
「……でも、ボロは出てるはずだよ」
ガルカがその言葉に反応した。引っかかった潤は聞き返す。
「どういうこと?」
「どこかに見落としているものがあるはずってこと。きっとそれは彼の過去にある」
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