025. 立ち向かえ
ヘニー・ハウトスミットと名乗った男は一歩、また一歩と潤の下へ近づいていく。
「お前があの英雄サマか?」
何か勘違いをしていることにすぐさま気づいた潤は敵でありながらその場で訂正を加える。
「いいや俺は英雄と言われるグレイス・レルゲンバーンじゃない。俺は櫻井潤、未熟な一人の魔術師だ」
自己紹介をし返してみせると、ヘニーと名乗った男は眉をあげ肩をすくめる。
期待外れ。そんな感情が体の全身から溢れ出るかのように見せると、今度は彼の口からその負の感情がこぼれる。
「なんだ違うのか、どおりで話聞いた時の特徴と違うわけだ」
どこもかしこも、何もかもが違うに潤とグレイスをどこで間違えたかは知らない。
だが彼は次にこう言った。
「じゃあ死んでもらうッ!!」
するとその瞬間、潤の視界からその男は消える。
「!?」
驚く潤のその顔も見ず、彼の後ろにいた兵士達を瞬きすら惜しいその時間だけで殺してしまった。
なんだこいつは。潤の脳内はそんなことしか考えられずにいた。
今すぐにでも先ほどの
その正体を今すぐにでも暴こうとするべく、潤は背中で交差している二つの剣を抜く。
「次は……お前だぜ」
まるでレイピアのように細い剣を持ったヘニーがそう声をかけると、潤は応える。
「かかってきやがれ……!!」
常人では目で追いつけないほどのスピードを出し続けながら突撃してくるヘニー。
彼の攻撃を常にすんでのところで防御をする潤は両方の剣で支えていたその攻撃から左側を抜き出しヘニーの腹部めがけて左薙ぎをかまそうとする。
「バカがッ!」
その攻めに気付いていたヘニーは後ろへとステップ、するりとかわしてみせた。
剣術だけでは勝てない、そう確信した潤は雄叫び混じりにこう叫ぶ。
「ウルサヌスううううううッッ!!」
右手に炎、左手には氷。
その言葉に呼応し現れるその超常現象。
剣から放たれる熱と共に感じる寒さはへニーにも届いていた。
「ウルサヌス、それがお前の魔術か」
お互い戦意と殺意しか感じない目を見あう。
「そういうあんたは……」
潤が次の言葉をいう前にへニーは自らその答えを口にする。
「イクスだ、オレの長所でもある俊敏さを極限まで高めたイクス。この速さについていける者は誰もいない……」
その能力は今、自分が持つこの
だが諦めるには行かない。こんな所でやられるものかと必死こいて彼はその口と体を動かした。
「そんな脅し文句っ!」
一歩を踏み出し、ヘニーに一撃を喰らわせる範囲にたどり着く潤。
潤は両手に握った炎と氷を纏う剣をヘニーの体めがけて同時に振り下ろす。
「お、らぁ!」
潤の渾身の一撃にも見えるその攻撃をヘニー本人の言っていた通りの俊敏さで避けられてしまった。
ほんの少しの時間でその男はいつの間にか背中に回り込んでいた。
しまった、焦りとともにその感情を露わにする潤は彼に斬られてしまうその間思考を巡らせた。
感情が覚悟した顔に変わると、振り下ろした剣の反動を利用し先程までヘニーのいた方向へと突き進む。
右から左へと横向きに斬ったヘニーの攻撃には当たるも重傷にまではいかずちょっとした切り傷程で済んだ。
その痛みを感じながら進むことをやめ、後ろを振り返る。
背中の傷を見せながら彼の顔を見る潤はヘニーにこう言わせた。
「時間かな」
「! なにをっ……」
その次も再び彼の言葉で遮られる。
「時間稼ぎ、させてもらったぜ? お前のお陰でアイツの出る幕を作れたみたいだな」
アイツ、その存在を知らないままどういうことだかいまだ分からない潤。
ヘニーはそのまま敵方の拠点へと歩いていく。
「待ちやがれ! まだ……!」
「とっとと英雄サマのとこに行くといい! きっと死ぬぞぉ?」
何を言うかと言わんばかりの感情が溢れ出る潤はその男の背から浮かぶ強さを感じずにはいられなかった。
追撃することも叶わず潤は彼の言葉に従うかのように自分の尊敬するグレイスの下へと向かった。
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