018. やってくる
アリアステラ戦線には裏庭とも呼ぶべき練習場がある。
そこで兵士は銃撃や近接の訓練、稀に魔術の行使さえ行う。
櫻井 潤とニンバス・インディルは彼に絡まれていた。
「アライアス・レブサーブだ! 元気かね!」
「は、はい!」
「潤、反応し過ぎると疲れるぞ」
先程から延々と過去にあった"レブサーブと愉快な仲間たち"の話を聞かされていたグレイス。
戦ってもいないのに既に疲れが見えていた彼は挨拶をしていた潤にボソッと耳打ちをする。
潤は小刻みに首を縦に振り、理解したような顔をグレイスに見せると、レブサーブに話を聞く。
「中佐が今回より、指揮官となるのですか?」
「そうらしい!」
「ら、らしい」
自分でも役割を理解出来ていないクライヴは隣にいたニンバスに目を向ける。
「ニンバス・インディル中尉だな! そうだ、中尉になったんだぞ! 皆出世への階段を一歩上がったんだ、そのままどんどん駆け上がって上の無能な奴らと替わっちまえ!」
挨拶をしていると思ったら急に別の話題へと転換するレブサーブ。ニンバスは一言も喋れず彼を喚かせたまま、握手しようとした手を力が抜けたように下ろす。
「この人、ヤってんのか?」
「俺にも分からん」
お互い小声で喋り合うグレイスとニンバスは彼が葉っぱをやっていないか、懸念していた。
そんな中、なおもしゃべり続ける彼はグレイスに尋ねる。
「なあ大尉、食堂はどこだ食堂。食堂にいるかわい子ちゃんを狙いに行こうじゃないか!」
我が道を往く中年男に呆気に取られている潤とニンバス。
「じゃ、じゃあ後でな…」
グレイスは食堂の場所も分からず行こうとするレブサーブに追随するため、潤とニンバスに一旦の別れを告げた。
グレイスとレブサーブの姿が見えなくなったあと、二人はポツリと呟いた。
「なんて人だ」
「嵐のような人、ですね」
アライアス・レブサーブは食堂に来た瞬間、最も近くにいた女性の隣に話しかけた。
「やあやあやあ! こんにちは!」
「え? ああこんひひは!」
「……」
グレイスはその女性、シルライト・ブラースカがここにいたことに驚く。
彼女は先の戦いで対物ライフルを腿にかすったと聞いたグレイスは、量はさほどないのにものすごい速さで平らげようとして、口いっぱいに食べ物を頬張っていたシルライトに聞く。
「シル、どうしてここに? 怪我してガルカと医務室にいるはずじゃ」
「へ? んんん……見てください!」
口に詰まりきったものを飲み込み左の太腿をさらけだす。
「おっほぉ、セクシー!」
2人を挟み間にいたレブサーブはその肌にみとれる素振りを見せる。
シルライト本人も少し黙ってしまうも奥にいるグレイスに向けて話し続ける。
「ほら、キレイさっぱり傷跡も……まああるっちゃありますけど痛みはないっすよ!」
彼女の足にはよくよく注視しないと分からないほどの傷跡しかなくなっており、グレイスはそれに目を見開く。
「マジかよ……軍に指定されていない特別な薬使ったとかじゃ……」
「ないっス! 昔から素の治癒力は身内への自慢でしたから!」
野生児とも言ってていほどパワフルな彼女は自分の体をよく理解している。
「次ん時からアタシも前に出ますから!」
よく理解した上での行動にグレイスは呆れると同時に感心していた。
「わかったわかった。中佐、よろしいですよね?」
自分か?とも言いたげな表情でグレイスの顔を見る。
グレイスが頷くと彼は声を大にしてシルライトに伝える。
「よし、シルライト……ぶ、ぶ、そう! ブラースカ!」
名前をド忘れしていた彼は咄嗟に思い出しなぜか安堵の表情を見せる。
部下の名前を言えなければありえないと自分の中で課しているように見えるレブサーブは続けた。
「シルライト・ブラースカ先任曹長、前線へ出ることを許可する!」
「うおーやったー! なんか階級も上がってるー!」
自分の頭の中で整理もつかないままに適当に喜ぶシルライト。
常にテンションが高く会話量も絶望的に多い、話すと疲れてしまうレブサーブ。
二人を見ていたグレイスは最早疲れを通り越していた。
「ああ、グレイス。俺はここの指揮官にはなったわけだが事情のために本国に戻ることが多い。不在時はお前が指示するんだ、わかったか?」
「え、あ、はい」
急にそんなことを面と向かって喋られるもイマイチここで言う意味が分かっていなかったグレイス。
そんな中、三人の前に一人の兵士がやってきた。
前線で正面の偵察兵をしていたと思われる彼はすぐさまレブサーブ達のもとへ駆け寄ってきた。
「敵です! 恐らく、イクスを持つ奴らだと思われます!」
その場にいた者全員が目付きを変える。
するとレブサーブが椅子から立ち上がりたてつけられた窓の先にいる"彼ら"に向かって口角を上げる。
「さーてと、バケモンのお出ましかな?」
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