第2話 夢のような楽しい時間と、はじめてのモヤっと 俯瞰視点(1)

「メリッサ、ようこそ。今日からここが、君の部屋だよ」


 引っ越し作業が始まって、およそ4時間半後。2人は#オスカーの家ルーエンス邸の2階にある、広々とした部屋の中央に立っていました。


「わぁ~、ひろーい。こんな素敵なお部屋、もらってい~の?」

「家族になるのだから、勿論さ。もうじき、君の家から運んでいる荷物が届く。それまでテラスで一休みしよう」


 メリッサの私物は予想以上に多く、専門の業者によって輸送中。そのためオスカーの先導で白を基調とした開放感のある空間へと案内し、コーヒーでの優雅なティータイムが始まります。


「婚約者としては、ウチで初めて口にするものだからね。最高級の豆とお菓子を用意したよ」

「オスカー、ありがと~っ。いただきますっ」


 現在の時刻は午後3時過ぎということもあり、有名店の甘いおやつをたっぷり添えて。丸いテーブルの上にはふわふわのチョコレートマフィンやしっとりとしたフィナンシェが並び、2人は笑顔を咲かせて味わってゆきます。


「オスカー。はいっ、あ~ん」

「じゃあ、今度はお返しだ。メリッサ、あーん」


 交互に食べさせ合って、他愛もない話をして、また食べさせ合って。2人は思う存分『初めて』を堪能し、気が付くと時計は午後の4時8分。一休みが始まってからすでに1時間が経過しており、すでにメリッサの私物も――服やアクセサリー、趣味で集めているカップとソーサーなどが運び込まれていました。


「ちょうど、コーヒーもお菓子もなくなった。そろそろ行くとしようか」

「だね~。いこいこっ」


 2人はここでも、恋人繋ぎ。愛する人のぬくもりを感じながら廊下を進み、


「はぁ……。ヴィクトリア君には、申し訳ないことをしてしまった……」

「はぁ……。ヴィクトリアさんには、申し訳ない事をしてしまったわ……」


 そんな姿を見ていた彼の両親は大きなため息を吐きますが、すでに2人は2人の世界を形成中です。そういった嘆きには一切気付かず楽しげにお喋りをしながら歩き、再びメリッサの自室となる部屋にやって来ました。


「1、2、3、4、5、6、7、8、9。よし、ちゃんと届いているな」


 部屋を入ってすぐの位置に積まれている、正方形の段ボール達。それを指さして確認したオスカーは、室内をぐるっと見回した後、隣にいるメリッサに目を細めました。


「それじゃあ僕達2人で、ここを君の色で染めていこうじゃないか。メリッサ、どの箱から開けていく?」

「…………え…………?」


 嬉々とした、ブルーの瞳。ソレを受けたメリッサは、ぽかんとします。


「??? メリッサ? どうしたんだい?」

「え……。あ、あれ……? 残りの引っ越し作業って、あたし達だけでやるの……?」


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