冬の就活

窓ガラスの役目って何? 

僕の頭の中で、彼女の台詞が蘇る。書きかけの小説のヒロインである彼女の。

彼女はさらに続ける。外を見せるため? じゃあ今映っているのは何? 外の大気を防ぐため? じゃあこれは何。

彼女のそばに立つ窓は遮光板のような黒さで鏡と同じように車内を映し、窓に近づけた手は冬の夜の寒さに染み込まれた。

彼女が話すシーンを、どの辺りに置く場面かはまだ決めてない。

仙台へ向かう高速バスは、とうとう夜行として消灯した。映画の一場面のように現実が浮く。

前にはスーツ姿の6人。一人だけが女の子で、懐かしい品になりつつあるCDウォークマンを渡している。渡された先、丸刈り頭。僕と同世代にも見えるし、もっと若くも見える。

23時に目的地に着くこのバスに乗って、目的は同じ? にしては、彼らから話がない。

羽生までの東北道は都心部と思えないほど暗く、いらだつほど先に進まない。この道をサークルの仲間と終点の青森まで飛ばしたのは、もう2年も前のことなのか。取り戻せない子供の頃の思い出のようだ。

……あぁ、「思い出を胸に生きていく」なんて、嘘っぱちだ。

楽しいことの思い出は楽しくない。思い出になっている時点で、今自分がそこから遠く離れている、不幸せな状態の証明なのだから。

この半年で僕は頂点と地の底を2度づつ歩いた。公務員試験に受かり、官庁訪問でお目当てに断られ、拾ってもらった官庁で誰よりも早く内々定をもらい、人事院面接で不合格を告げられた。そして、いま一向に決まらない就職のため、実家の周りで行われる合同説明会に行こうと安いバスに乗った。

半年後、なんて3文字で時は流したりなんてできやしない。一日は気が狂いそうに長く、ひと月は輪廻転生を繰り返せるほどに長い。

そして僕は一向にその輪から解脱できないまま、このバスの進む世界を繰り返している。

暗がりだった車内が容赦の無い点灯に晒される。サービスエリア休憩だ。座席の7割がのろのろと外の空気を吸いに這い出していく。

さっきの6人組のうち4人が外に出て、ゴミ箱のそばでなにやら話をしている。そばを通り過ぎた僕を不審そうに眺め回して。

既に営業時間を過ぎたレストランは光を落とし、ピークの過ぎた駐車場は大型バスの姿が横たわるだけ。

何も無い荒野より、寂れたものが置いてある方が、世界は終わったように感じられる。

誰もいない明かりの消えた年代物のサービスエリアの建物、道路の向こう側のいつ止めたのか知らないパチンコ屋の残骸。

そしてぽつんと一見だけ立つ古いラブホテル。

この白い息を吐いたら、またバスは動き出す。

目的地はある、けれどいつまでこんな状態なのか、分からない。破滅から逃げているようだ。

サービスエリアに立ってみるこの風景。

これが、もう終わった世界の観光旅行ならいいのに。

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