a Scene

月宮アル

海王星への夢

青い光が見たかった。

光なのに、水のように冷たい、真っ青な光が見たかった。

真っ暗闇の中で、蝋燭の炎のように燃える、ちいさな青い光が見たかった。


太陽系には地球のほかにもうひとつ、青い惑星(ほし)がある。

名前は海王星。

水素とヘリウム、そして少しのメタンで出来た大気は、氷点下218度の世界だという。

人類ではじめて、僕はその星を、肉眼で見た。

ずっと昔に見た、理科の教科書の小さな写真が、この無音の世界の光景に置き換わっていく。

ああボイジャー2号よ、ありがとう。君がいなかったら、こんな遠くまで来なかった。

遥か昔に、ただ一人ここへやって来た機械の先輩に、僕は心から感謝した。


新型ロケットの試験をしよう。外惑星を人の手で調査しよう。人類の踏破距離を可能な限り伸ばしてみよう。

この「自殺者集め」と呼ばれた計画に手をあげたのは、世界中で10人。その全員がこの夢のような計画に採用された。

この海王星に行くまでに、1人減り、現在は9人。そいつは木星の衛星に遺跡を探すと言って、意気揚揚と飛び出していった。

出発前の飲み会で、あいつは、物凄く早口のスペイン語で全員に絡みながら、嬉し涙を流していた。子供の時の夢が叶う、と。

僕も、あいつも、他の8人も、みんな同じ気持ちだったから、その言葉に歓声を上げてまた全員で瓶をぶつけあう乾杯をした。

僕らは地球でもう22年も生きた。

この星が見られるなら。

宇宙の闇の中で、地球よりもっと深く、遠く、寂しげに光るその姿を見られるなら。

あの星で生きることには、飽きてしまったんだ。


太陽系にやってくる客人は、地球より早く、この青い星を見るのだろう。

地球がこの年まで一度も宇宙人に侵略されなかったのは、この星に、猛る心が消し去られてしまったからに違いない。

人類の7割が、この色を好むという。

なのにどうして青は、悲しいことのたとえにばかり、使われるんだろう。

ひとりで問いかけながら、僕はゆっくりと落ちてゆく。

文字通り骨まで凍るだろう、一番好きな色を集めて輝く、誰もいない世界へ。

この星の大気の底には、子供の時夢見た、あの光があるだろうか。

振り返った先に、ぼんやりと、光るあの星が少しだけ見えた。

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