今夜はソロツー日和

天海月

第1話


月が高い。



幹線道路を真っ直ぐに進む。


タクシーをかわしながら、四車線を右折し、高速へと吸い込まれていく。


合流車線で一気に加速すると、トラックの隙間にするりと入り込んだ。



予備区間が終わると、一旦減速し、料金所の発券機からチケットを受け取る。

それを無造作にジャケットの右側のポケットに捩じり込むと、また直ぐに走り出す。


再度、加速とギアの変速を繰り返し、5速5000回転弱に落ち着く。


後ろから力強く押されるような感覚とリズミカルな振動がどこか心地良い。



まったりと左車線を流す。


暗闇の中、等間隔に並んだ外灯が次から次へと後ろへと流れていく様は、どこか非現実めいていて見えた。


それを反射する計器類のメッキの煌めきが妙に艶めかしい。


時折、右車線を狂ったような速度で白や黒の外車が駆け抜けていく中、マイペースに一定の速度を保って走り続ける。


少し頼りなさげなヘッドライトの奥に広がる夜空を背景に、ヘルメット越しに聞こえる風を切る音と、エンジンの鼓動、ロードノイズだけが無機質に響く。


もうどれくらい経っただろうか。


数時間こんなことを続けていると、段々と日常の感覚から精神が逸脱していくのを感じ始める。


次第に、景色が動いているのか、自分が動いているのかわからないような奇妙で鋭敏な感覚が広がってくる。


前方の暗闇を注視しているにも関わらず、後輪が蹴り上げたアスファルトが散らす砂の一粒一粒の存在すら克明に感じとれるような・・・。


そんなもの決して肉眼で見えはしないはずなのに。


真夜中のツーリングはどこか人間をおかしくするらしい。



頭上に大きく掲げられた緑の看板が一番近いPAを知らせる。


休憩。


寒さと振動で固まった身体を解してから、明るい方に歩きだす。


スナックコーナーも既に営業を終えている閑散としたPAの自販機で、缶コーヒーのボタンを選ぶ。


エンジンが段々と冷えていく金属質の音と、外灯に照らされたトラックのアイドリングをBGMに、悴んだ手を温めつつ、煮詰まったような味のするそれを、ゆっくりと喉に流し込む。


月に掛かる息が白い。



しばらくして、冷え切ったエンジンをしばらく暖気した後、ゆっくりと駐車スペースを抜け合流車線へと入っていく。


1速から3速まで目いっぱい高回転で引っ張り、一気に加速した後、後方を確認し、滑らかに本線へ流れ込む。


まだ、夜は始まったばかりだ。


これから、どこで朝を迎えようか・・・。


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今夜はソロツー日和 天海月 @amamitsuki

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