ものうい

黒瀬。

第1話

出会いの季節…よくできたものだ。


桜の花びらがそよ風に乗って目の前を通り過ぎ、いい感じの積雲たちは空で追いかけっこをしている。


登り坂を一年間履いたローファーで踏みつけながら、気分の上がるミュージックを両耳で聴きながら、私の気持ちはそれらすべてと対比していた。


「つらすぎる…」

っ、、声に出してしまった。最悪。


なぜクラス替えというものがあるのか、なくてもいいだろうが。

今、お前のせいで独り言まで呟いてしまったのだから、どうにかしてくれ…。

ああ、この登り坂、空まで繋がってたりしないかな。

もし空まで繋がっていても酸素が薄くなって坂を下ってしまうだろうか、それとも…


そんなことを1個当たり0.2秒くらいの速さで考えていたが、もう昇降口に来てしまった。

先生方に挨拶はしないといけないから、わざわざイヤホンを外して笑顔を作り、斜め前に首を傾げながら、おはようございますと言う。


いつもに増してしっかりとした服装の先生方が笑顔というよりかは笑み、満面の笑みで語尾に「っ」と「!」をつけて挨拶を返してくる。


かえりてぇ~~~~~~。。と思ってイヤホンを片耳に戻す。


その時後ろから声をかけられた。

「おはよ~」

同じクラスだった男子だ。私はあわてて返す。

「っはよ~!」

「クラス替え、どうなるんだろうねー。」

まぁた現実を見せないでくれ…

「私はこのクラスのままでいいかな~って。」

「俺も思ってた!」

彼は少し屈み、背の低い私を覗き込むようにして目をあわせ、そう言ってきた。

私は近くにある顔に向かってさっき先生に見せたのと同じ笑顔をして、笑った。


自分は万人受けしそうな人間をやっているつもりだ。

前髪は毎日しっかり巻き、後ろはゆるふわな肩につかないくらいのボブで、アクセントに清潔感のある金色のピンをつけている。

眉毛はしっかり整えて、まつげには毎日綺麗なカーブを描かせる。

ワイシャツの第一ボタンは閉めたことなんか無いし、スカートは校則ギリギリアウトまで折っている。


努力のせいかはわからないが、今話している人だけではなく、数人の男の人から好きだと告げられたこともある。

まあ自分で言うのもなんだが、中の上あたりにはいると思う。


でも…


「おはよー!」なんだか浮ついた女子の声、

「はよ~」さっきまで歩いてた彼はワントーン下がった声で返す。

どうやら教室についた私たちに挨拶が降りかかってきたらしい。が、違った。

後ろで温度差のある男女が話しているなと思いながら、私は一直線で自分の席まで歩く。

私は隣に座ってた普通のクラスメイトにお別れだねーなんて、半径100mの人間で数えたら一体どれだけの人がこの切り出し方をしてるのかという鉄板な話を鐘が鳴った5秒後までしていた。


なんで5秒後かというと、黒板に先生が新しいクラスと名前の書かれた紙を貼りだしたからだ。

8クラス分の名簿が一気に貼られて瞬時に自分の名前を見つけられるわけないし、どうせ後で先生に一人一人呼ばれるからそんなに気にしなかった。が、

「ねー!C組だって私!」…いや見つけるの早すぎだろ、

「あ、ゆらはH組だって~。端っこじゃん笑」

「え、私よりも見つけるの早い~!」手間が省けたのか…?

「どれどれ~…」H組の名簿を目で追うと、


やっぱり最悪。クラス替え最悪。今日って厄日なのか?それともこれは今年が厄年ってことか?いやでも、おみくじは大吉引いたよな、あれって去年だっけ?


ある。忌まわしきあの女の名前がある。H組に。


「出会いの季節…ねえ…」

「ん~?」

「い~や、」


まったく、本当によくできたものだ。



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ものうい 黒瀬。 @kurosss_xxx

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