タイムトラベラーと魔女

柳瀬 新

第1話 シルバーリング

 「ふう。」


 俺は溜め息をつき、額に浮かんだ汗を拭った。

 さすがに1日で終わらせるには無理があったようだ。だが、この調子だときっと今日中に終わるだろう。


 「ん、なんだ、これ?」


 足元に指輪が落ちていた。

 身を屈め、銀色に輝くそれを拾う。

 それは飾り気のない、華奢なデザインの指輪だった。こういうものに詳しくないため、よくわからないが大きさは小さめで、俺の小指くらいのサイズだった。きっと、女性用なんだろう。


 「いくらするかな、これ。」


 見覚えはないが、今月は赤字なんだ。自分の物ではないが、見逃してほしい。

 今更だが、傷つけないようどこかに保管しようと辺りを見回す。

 が、部屋は置き場がないほど物が散乱しており、迂闊に置くと無くしてしまいそうだった。

仕方がないので、自分の左手の小指に嵌める。

  自画自賛のようだが、俺の指にこのシルバーリングは良く似合った。


 「おっと。」


 急に目眩を感じた。きっと、朝からぶっ通しで作業していたからだろう。


 「少し休むか。」


 俺は、近くにあったベッドに体を投げ出す。しかし、あるべき衝撃―、つまり、体がベットに受け止められた感覚がない。


 「...え.....?」


 とたん、視界が大きくねじ曲がり、とてつもない浮遊感に襲われる。


 「うわわわわあああぁぁっ!!!」


 俺は今までに感じたことのない恐怖を感じ、全力で足掻く。が、非情にも俺の体は物凄い速さで落ちていく。


 ドスン、ズサー。

 「痛っ!」


 俺は地面に叩きつけられた。

 全身打撲したようにジンジンと痛む。そんな俺に構わず、誰かが俺の隣を駆け抜けた。

 思わず顔をあげた。そのときになって初めて、自分の置かれた状況が変わっていることに気付く。

 

 ココ、ドコデスカ…?


 明らかに自分の部屋の中ではない。日本でもない。

 街(?)には土埃と火の粉が舞っており、たくさんの人の叫び声と怒鳴り声が聞こえる。


 コレ、ヤバクナイ、デスカ…?


 本能が俺に危険信号を発している。早くここから逃げろ、と。

 女性の叫び声で我にかえった俺は取り敢えずここから逃げようと痛む体を無理やり起こそうとしたところで、


 「ひぃっ!」


 ―俺の目の前に槍が突きつけられる。

 全身に嫌な汗が流れた。


 なぜだ…なぜ、こうなった…!


 俺はただただ固まっているしかなかった。







 


 


 

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