氷川丸はホノルル港へと入港した

氷川丸はホノルル港への入港の準備を始めた。


タグボートが2隻、氷川丸と並走し、パイロットボートから水先人が乗船した。


1930年代のホノルルはまだ現代の姿とは違い、当然ながら高層のホテル群やコンドミニアムなどはなく、自然が多く目についた。


船が桟橋に着岸し、碇が降ろされた。


出港は明日、1日の停泊である。


もちろん私はパスポートを持ってはいないので、船から降りることはできない。


他の乗客や船員は下船し、街に出る者もいた。


ひさえさんも下船していた。


関係者で入国できるのだろうか。


同じく船員の若い男がひさえさんと親しげに話しながら桟橋を歩いていくのをデッキから見守った。


私は嫉妬していた。


デッキのベンチに寝転び、目を瞑った。


目を覚ました時にはすでに日が落ち、トワイライトの青い幻想的な空へと変わっていた。


デッキへの扉が開き、ひさえさんが私の方に歩いてきた。


「退屈していましたか?


これ、お土産です。」


彼女は木彫りの小さな海亀の置物を私にくれた。


「ありがとう。」


私はつい彼女への思いの丈を打ち明けそうになったが、自分の置かれている状況を思い出し、その海亀の置物を上着の胸ポケットへとしまった。


ホノルルの夜の気温は快適で、先程までデッキで寝ていたのにもかかわらず、私は部屋に戻るとすぐに深い眠りへと落ちたのであった。

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