第2話

 アマンダ女伯爵にはライルという今年15歳になる一人息子が居る。


 父親であるロバートはライルが産まれてすぐ、落馬事故で帰らぬ人になってしまった。ロバートの忘れ形見であるライルは、幼い頃から亡き父親にそっくりだと回りから良く言われた。


 そんな息子をとにかくアマンダは溺愛した。これでもかというくらい甘やかして育てた。女手一つで育てるのは大変だろうと、回りから勧められた再婚話も全て断って只ひたすら息子に愛情を注いだ。


 再婚を断っていた最たる理由は、愛息のこともさることながら、未だに亡き夫のことが忘れられないということの方が大きい。


 貴族にしては珍しく恋愛結婚だったアマンダとロバートは、それはもう周り中が引くぐらいのバカップルとして有名だった。


 伯爵家の一人娘として婿を迎えるという立場に加え、若い頃から傾国の美女として誰もが振り返る程に整った容姿をしていたアマンダは、とにかく若い子息達からモテまくった。


 自分を巡って争奪戦を繰り広げ醜い争いを繰り返している子息達に、ほとほと嫌気が差していたアマンダの前に現れたのがロバートだった。幼馴染みのスミスから友達なんだと紹介されたのが初対面だった。


 ロバートは最初からアマンダのことなど眼中にないかのように、アマンダに対して自然に接して来た。そんなロバートの反応が新鮮だったアマンダは、気付けばロバートと一緒に過ごすようになっていた。ロバートの側は居心地が良かったからだ。


 やがてその思いは恋へと発展し、アマンダは熱烈なアプローチを繰り返してロバートのハートを射止めた。


 やがてロバートと結婚し、ライルを授かった時はアマンダにとって人生最大の幸福な瞬間だった。だからこそ、そんなロバートが残してくれた息子であるライルは、アマンダにとってかけがえのない存在なのである。これで溺愛しない方がおかしい。


 ライルは成長するにつれ、本当にロバートそっくりになっていった。まるで双子の兄弟のように。嬉しくなったアマンダは、ますます溺愛した。毎日愛を囁いた。その結果...


「は、母上! あ、あの、い、一緒に、お、お風呂入りませんか?」


 コイツは一体何を言っているんだろか? 風呂場の前で顔を赤らめてモジモジとしている息子を見たアマンダは頭を抱えた。


「フウッ...ライル、いい加減にしなさい。あなた幾つになったと思っているの? 気は確か?」


 アマンダは大きなため息を吐きながらそう言った。

 

「ち、違うんです! 最近、母上がお疲れ気味なのでマッサージをしてあげたいと思いまして!」


 そう言ってロバートはローションを勧めて来たのだが...コイツは実の母親をローションまみれにして何をするつもりなんだ...アマンダは怖くなって来た。


「あ~...気持ちだけありがたく受け取っておくわね。私は急ぎの仕事があるのを思い出したんで戻るわ」


 アマンダはそう言って、ライルが何か言う前に風呂場を後にした。まさかいくら父親のロバートにそっくりだからと言って、思考までそっくりにならなくても...今のロバートは間違いなく実の母親を一人の愛する女として見ているんだろう...アマンダは頭が痛くなった。


 育て方を間違えた...


 

 

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