第11話 アリスの交渉術
アリスは思っていた。
やってしまったと、アグーの事をすっかり忘れていたと。
アグーとお風呂……は、まぁ百歩譲って良しとしよう。
その後も幸せすぎて完全に忘れてたよ。
『ごめんね、アグー。また今度本当にお風呂一緒に入ってあげるから』
そんな事をつゆも知らないアグーことぼくは、快適空間内で全く快適ではない時間を過ごしていたのだ。
そしてどのくらいの時間が経っただろうか、その頃には時間の感覚なんて無くなっていたけど、それは突然起きた。
そう例のアレである。
ぼくが目を開けた時目の前にはアリスがいた。
「おはよう、アグー……」
ぼくは窓の方へ行き窓を開け、身を投げ出した。
正確には(窓の方へ
小さいテディベアだから仕方がないよね!
「アグー!!!」
『もちろん召喚獣だから、死んだりなんてしないけどさ……』
窓の外で逆さ向きになっているぼくの体をアリスが必死になってぼくの足を持っていた。
『まぁ、それも数秒の事だったけどね。だって軽いから!』
「で、アリス? 何か言いたいことは?」
「ごめんね、アグー。今度は絶対一緒に、お風呂に入るからね」
「ふ〜ん!」
「他に何かして欲しいことある?」
「そこに入りたい」
「そこ?」
「どこ?」
「ここ?」アリスが楽園を指さしたので『うんうん』と頷く。
「良いよ」
ぼくは至福の時を得たのだ!
「おはようございます」
アリスがママさんに挨拶をしている。
もちろん目はアリスの胸元だ!
「えー、と何か?」
女性って視線が、どこに行ってるかわかるから気をつけようね!!
「あっ! ごめんなさいつい!」
『つい、なんだろう』と、思うアリス。
『今日もあの中に居るのねあの子は、羨ましい』と、思うママさん。
「「あははは」」全く別の解釈にて笑い合う二人だった。
朝ごはんは
その後ぼく達はギルドへと向かう事にしたのだ。
ギルドに着くなり受付のメアリーさんに挨拶をし、昨日同様ギルドマスターである、ナタリーさんの部屋に案内された。
「おはようございます、ナタリーさん」
「おはようございます、アリスさん」
「お座り下さい」
アリスとナタリーは椅子に腰掛け、ぼくはアリスの膝の上に陣取っていた。
「今日は召喚獣は、居ないんですね?」
「いえ、居ますよここに」
「この小さいクマさんがですか?」
「はい、そうです」
「アリスさんは本当に召喚魔法が得意な方なのですね」
「どうなんでしょうね……」
「では、昨日持ち込んで頂いた玉の事ですが、かなりのレア物だという事がわかりました。エルダーフロッグの玉は本来、魔法を付与する為の核に使用する為に使われます。昨日こちらからお見せした物も核に使われるのですが、あれは下級魔法が中心で、良くても中級魔法の下のランクまでしか使用ができません。しかも魔法付与は100%成功するというものでもなく、魔術師の魔力もそうですが核の質によっても確率が変動します。先程下級魔法が中心と言いましたが、その中でも成功確率は高くて70%になっています。そこで、昨日持参頂いた玉なのですが、下級魔法ならどの魔術師が付与しても100%成功する事がわかりました。そして中級魔法ですがこれも高確率で付与できる事がわかったのです」
詳しく聞いたところ、下級魔法ならどのクラスの魔術師が魔法付与を行っても100%の確率で付与ができたとの事。
また、上級魔術師が行った場合一つの核に対して最大三つまで付与する事ができたそうだ。
中級魔法に関しても中上級魔術師なら80%の確率で成功し、下級魔術師でも70%の確率で付与が可能だったとの事。
ぼくはそれを聞いて、あのカエル凄いんだなと感心していた。
珍しくアリスが静かに聞いているなと思い顔を伺うと
『……はっはぁ〜ん、こいつ絶対わかってねぇ〜な』
アリスの顔は心ここに在らずといった様子で、魂が抜けたような顔をしていた。
ナタリーさんの話しが終わっても反応が無かった為、ぼくはアリスの横腹をつつく。
(本当は○○○○を……)
「ひっ!」という声と共に、我にかえったアリスが、「ひゃい!」と返事をした。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。すいません」
「そういう事で、かなりレアな物になりますけど買い取らさせて頂いてもよろしいのでしょうか?」
アリスがぼくの顔を伺うので『うん』と頷いておいた。
『お願いだから自分で決めてね
「大丈夫です、全て買い取って頂いて構いません」
「そうですか、ありがとうございます。それで金額なのですが、本来なら金貨1枚での買取になるのですが、この質ですので、
『金貨5枚買取か! 合計150枚、金額にして150万円』
『悪くない!! これからもあのカエル達とは友好関係を結ばねば!! これでアリスも貧乏生活とは無縁になったな。よしよし』
良かったね、とアリスの顔を見ると。
何故か難しい顔をしていた。
「アリスさん? 何かご不明な点でも?」
「え〜と、そうなんだって思いまして!」
『うん? 何言ってんのこの子は? 盗賊の時金貨5枚でビビってたよね、君!』
「お気に召されませんか?」
「そうですね〜、ちょっとそんなもんなんだと思いまして……」
『え! まさかの値上げ希望!! 貪欲になったね!』
「そうですか、ではこうしましょう! 今後定期的にこれを納品して頂けるのであれば、金貨10枚で取引をさせて頂きますが!」
「はい、それなら問題ありません!」
『………!! スゲー! なんちゅう交渉術! アリスにこんな才能があったなんて知らなかった!!』
アリスはぼくに満面な笑みを向けてきた。
ぼくも良かったね、という顔で微笑んだ。
『まさかの金貨300枚!! しかも定期的に入ってくる!! ヤバくね! 今日はお風呂でアリスのお背中を丁寧に丁寧に洗わねばな!』
「では、ご用意をさせて頂きますのでお待ち下さいね」
そう言うと、ナタリーさんが部屋から出て行った。
ぼくがアリスに値段の交渉をした事を聞こうとした時。
「ナタリーさんも変なこと言うよね!!」
「うん? なんで?」
「だってさ特別報酬の欄に金貨1枚って書いてたんだよそれが
「……うん………」『うん!!?』
『なんだ、この違和感は……!? アリス今なんて言った? 確か……』
「アリス今………」
《コンコンコン》ドアをノックする音がし、メアリーさんとナタリーさんが入ってきた。
そしてその手には大きめの袋が一つ握られていた。
『デカ! しかもパンパン!』
アリスの顔を見ると???という表情をしていた。
「お待たせしました。アリスさんとの交渉で増えた金額を足すのに少し時間がかかってしまいました。ではエルダーフロッグの玉30個分の金額としまして
『うっひょー!!! スゴ! 300万! 圧巻だね!』
さてさて、アリスは……。
『………あぁ〜、やっぱりか! 可愛い顔が台無しだなこりゃ! 顎でも外れたんかな!?』
口をこれでもかってほど開けて、目が泳ぎまくっていた。
「アリスさん? どうかされましたか?」
「えっ! いや、これは多す………ひぃっ!!!」
思わずぼくが、アリスの横腹をつついた。
『おめぇ〜、今絶対多すぎるって言おうとしただろう!!!』
半分泣きそうな顔でぼくの顔を見てくる。
ぼくは首を横に振り『何も言うな!』と念を送った。
『でも〜』という情けない表情を浮かべて見てくるが『大丈夫』という意味を込めて、首を縦に振った。
『やっぱり、おバカだったか……』
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