第22話 嫌な二人

 昼食を摂り終え、次に俺たちが向かったのはゲームショップだ。


 午前を終えた段階で色々あったが、とりあえずここが今日の本命。


 三月さんは小咲さんにホラゲーを勧められる体で来てるけど、彼女からすればアイクラを勧めたいという気持ちもある。


 というかこれは事前に聞いておかなかったんだけど、様子を見た感じ、三月さん普通にホラーものが苦手なんじゃなかろうか。


 今、ゲームショップに入ってブラッドな感じのホラゲーを見て回ってる俺たちだけど、どうもそんな雰囲気を感じ取ることができた。


「あ、あの、三月さん。大丈夫?」


「……だだだ大丈夫ででです……」


 いや、どこか!?


 思わず心の中でそうツッコんでしまった。


 顔を青くし、ガタガタ震えながら一点を見つめ続ける三月さん。


 これは完全にホラゲー苦手なやつだ。なんで来るまでにそのことを伝えてくれなかったんだ。


「ねねね、三月ちゃん! 三月ちゃんはパッと見どれがやってみたい!?」


「――! そうですね、私はこれとかすごくやってみたいです」


「わー! さっすが三月ちゃん! これ最近出たやつで一番怖いって有名なやつだよ!」


「へ……!?」


「いやぁ、もうこのゲームがやってみたいってんなら、今度小咲の家に来てもらって、一緒に最恐ホラゲを一緒にできるやつだよー! 今度一緒にやろーね!」


「は、ふぁ、ふぁい……。た、タノシミデスー……」


 目を輝かせながら言ってくる小咲さんに申し訳ないと思ってるのか、三月さんは一瞬で毅然とした表情を作り、ビビってない風を装う。


 もはや頬を引きつらせるしかない。


 別にこれくらいで嫌われたりはしない。本当のことを言ってしまえばいいのに。ホラーもの苦手って。


 本当のことを言わないでおくと、普通なら何でもないことなのに、ずっと本音で喋ってくれなかったんだっていう意味で相手を傷付けかねない。


 憶測でしかないけど、小咲さんそういうところ気にしそうだし、いざこざになる前に助け舟を出してあげないといけない。


 ある種、それが今日俺の着いてきた意味だろう。


 そう思い、とりあえず三月さんにそのことを伝えるため、小咲さんから引き離そうとした時だった。


「あれ、もしかして小咲さんじゃない?」


「――!」


 突然背後から発せられた、テンションの高い声。


 その声を聞き、小咲さんの小さい背中は一転してビクッと震え、縮こまってしまう。


 俺は声のする方へ視線をやった。


「あ、ホントじゃん! うわっ、なっつー!」

「おーい、小咲さーん」


 そこにいたのは二人の派手目な女子。


 ギャルっぽい感じで、小咲さんと仲がよかった人たちとはとても思えない。


「………………」


 現に小咲さんは反応せず、自分をいないことにしたいかのように沈黙し、固まったままだ。


「ちょ、無視とかひどくなーい?」

「ねえ、小咲さんってばー」

「うちらもうコサ菌とか言わんし。ほら、ほら」

「そーそー。ねー、久しぶりー」


 言って、二人の派手な女子は小咲さんの小さい背中を馴れ馴れしくパンパン叩くように触り始めた。


 そこまでされればもう反応せざるを得ない。


 精一杯の作り笑いを浮かべる小咲さん。


 彼女のあんな表情は見たことがなかった。


「……あ、ひ、久し……ぶり……」


「あ、やっと喋ったー」

「お久ー。ねー、小咲さんこんなところで何してんのー?」

「何してんのって、ここゲームショップじゃんw ゲーム見てたんだよねー小咲さん」


「……う、うん……」


「きゃはっ! そういえば、小咲さんってオタクだったよねーw それでゲーショかー。納得ーw」

「何だっけ、確かノートに漫画とか描いてたじゃん。イケメンwの出てくるやつww」

「きゃははは! ウケルーw ちょいそれ思い出させんでーw 笑うーw」


 一目でなんとなく予想が付いた。


 彼女ら二人は、中学時代、小咲さんと同じ学校に通っていた人たちなんだろう。


 けど、小咲さんとしてはいい思い出のない二人であって、出会いたくなかった人たち。


 控えめに言って最悪だ。


 それは当人である小咲さんはもちろん、俺や、傍にいる三月さんにとっても目をそむけたくなるような展開だった。

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