本当の愛を見つけたのでしょう?お幸せになって下さい

さち姫

第1話 婚約解消

「カレン。婚約を解消しよう。私はやっと本当の愛を見つけたんだ」

淀みなくはっきりそういうと、アルファードは隣りにいるシルビアに手を差し出した。

私に1度も見せたことの無い、優しい顔だった。

胸がとても痛くなった。

「嬉しいわ」

シルビアはその手を取り、わざわざ私と目を合わせ、幸せそうに笑った。

ぎゅっと、唇を閉めた。

「どういう事ですか!?急にそんな内容」

隣にいたお父様が納得出来ないと、前に出ようとしたのを手を出しとめた。

「やめて、お父様。いいの」

「カレン!?」

私の気持ちを知っているだけに目を見開き信じられないと、私の顔を見た。

ゆっくり頭を振り、お父様に微笑み、そしてアルファードに向いた。

アルファードの少し後ろで控えていた宰相様が、お父様を止めてくれたのを、安心し、また背筋を伸ばした。

「いいわよ。婚約を解消しましょう。そういう約束だったからね」

なるべく明るく答えてあげないと。

嘘つき。

もう一人の私が囁く。

「そう言いってくれると思ってた。すまないな、私の方が先に見つけてしまって」

気恥ずかそうに笑い、また、シルビアを見つめる。

「ごめんなさいね、カレン」

甘えた声で謝っているが、そこに隠れる気持ちは、何て分かりやすいの。

胃が重たくなる、そんな感覚が走った。

「ううん。2人が幸せになってくれたらいいの。いつの間にこんな事になったの?全然気づかなかった」

少し茶化すように聞いた。

本当にいつの間に?と思う程急な話だった。

「いや、私も急にシルビアが大事に思えたんだ。そう思ったら、何もかもが愛おしくて、側にいたいと思った。それで思いきって想いを伝えたらシルビアが泣きながら私もよ、と言ってくれたんだ」

「だって、すごく嬉しくて・・・前から好きだったけれど、カレンという素敵な婚約者がいるんだもの。ずっと諦めなきゃ、て思ってたの・・・」

涙声で、でも、とても嬉しそうに言った。

私はずっと側にいたのに・・・そう思ってくれなかったね。

「じゃあ両想いなんだ。本当に良かったね、アルファード」

にっこりと笑ってあげた。

ひくひくと頬が震える。

心がとても痛くて悲鳴を上げているのも分かっていた。

でも、そんな自分を見せたくなかった。

「ありがとう。カレンが早く私達みたいに愛せる人に出会えるように祈ってるよ」

私達、か。

私、は違う、とはっきりと言うのね。

「大丈夫よ、カレンなら。可愛いもの、すぐ相手が見つかるわ。本当は、カレンももっと早くアルファード様に解消して欲しかったかもしれないわ。ねえ、カレン。政略結婚なんて、嫌だもね。やっぱり恋愛結婚がいいわよね」

意地悪な言い方だ。

そして、頭のいい言い方だ。

「そうね。まあ、もともと私達は誰か好きな人が出来たらすぐ解消しようと約束していたからね。では、宰相様。私達はもう帰っても宜しいですか?」

声をかけた。

「では、ナギッシャ殿、カレン様がご承諾されたという事で婚約解消という事で宜しいですか?」

宰相様が早く終わらせたいと、早口で聞いた。

これ以上いたらお父様が騒ぎを起こすかもしれない。さっさとこの部屋から、いいえ、この2人の前から去った方がいい。

宰相様もちらちらとお父様を見ながら、不安そうだった。

「・・・カレンがそう言っているのだから、それでいい」

お父様が納得していないのはわかったが、これ以上言っても意味が無いと吐き捨てるように言った。

「では、2人ともお幸せに」

最後ぐらい、綺麗に去りたかった。

すっと背筋を伸ばし、優雅に会釈した。

いついかなる時も、微笑みを絶やさずに、いずれアルファードの妻になる為に教育をされた、それが、こんな所で役に立つなんて、皮肉だわ、と思った。

私とお父様はすぐに部屋を出ると、屋敷へと帰った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る