君がいた時間を僕は忘れない

汐川ヒロマサ

第一章 タイムリミットを知った ①

 それは、高校二年の五月に告げられた。


 中学を卒業するタイミングで、父の転勤をきっかけに、東京に引っ越すことになった。

 新しい環境での高校生活は、期待よりも不安に満ちていた。そんな私に、声をかけてくれたのは、ユメだった。

 「花音ちゃん、家庭科の実習、一緒にやらない?」

 入学当初、なかなか馴染めず、一人で行動することの多かった私に、初めて友達が出来た。

 ユメとは、アニメ好きという共通の趣味があり、前の日に見たアニメや漫画の感想を言い合う時間が、とても楽しかった。

 不安だった高校生活も、友達が出来たことでその不安もなくなり、一か月が経つ頃にはクラスにも馴染めるようになっていった。

 今日も席をくっつけて、ユメと二人でお昼ご飯を食べている。

 「そういえば、花音ちゃんは中学までどこにいたの?」

 「富山の田舎の方にいたよ。だから引っ越してきたときに、有名なお店とかいっぱいあって、都会ってすごいなーって思った」

 私の返事に、ユメがけらけらと笑う。

 ユメは幼い時から東京に住んでいて、学校にも薄く化粧をしてきたり、スカートを短くしたりと、私のイメージ通りの都会の女子高生だった。

 「花音ちゃん、本当に面白い」

 そう言いながら、購買で買ったメロンパンを一口かじり、話しを続けた。

 「うちのクラスって、かっこいい人いないよね」

 私には、最近まで地元に彼氏がいて遠距離恋愛をしていたので、イケメン探しをしたことがなかった。別れた原因は、会えないから、という理由だけだった。遠距離のカップルあるあるな別れ方だった。

「そうだね…いないね」

 「私はダントツ竹内くん推しだなー」

 竹内くん、という名前はよく聞くが、実際どんな人でどんな顔をしているのかは分からなかった。

 「花音ちゃんも、竹内くん推し?」

私は首を横に傾け、作り笑いをすることしか出来なかった。

 「竹内くんって、誰だっけ?」

 その瞬間、ユメは飲んでいたジュースが吹き出しそうになる口を必死に抑えた。

 「え?あの竹内くんだよ?」

 私が困ったように笑うと、ユメはお腹を抱えて笑い出した。

 「もう、花音ちゃん最高。面白すぎる」

 笑いながらも、ユメは竹内くんについて説明しだした。

 「ほら、入学式で、新入生代表で挨拶していた背の高い爽やかイケメン」

 その言葉に、一年前の入学式を思い出す。

 私は入学式の時、友達出来るかなとかイジメられたりしないかなとか、とにかく不安と緊張で、新入生代表が男だったのか女だったのかすらも覚えていなかった。

 思い出せず苦笑いをしている私に、呆れたようにユメが笑う。

 「新入生代表挨拶って、入試でトップの人がするもんでしょ。竹内くんは、サッカー部で運動もできて、頭もいいイケメンって、すぐに噂になったんだよ」

 「そうだったんだ。へえ」

 そのあとも、ユメに竹内くんの情報を教えてもらった。

 ユメが熱弁している途中で、五時限目の予冷がなった。

 まあいいか。どうせ『竹内くん』と関わることなんてこれから先ないだろうし、と彼の情報を曖昧なまま頭の片隅に放り投げた。

 「ねえ花音ちゃん、帰り、本屋さん行かない?今日発売の漫画があるんだよね」

 私は「いいよ」と返事をして、ユメの方を向いている机を元に戻した。

 私の高校生活は、ユメと友達になれたことで毎日が充実していた。


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