きゅんきゅんイケメンパラダイス



「……子!梅子!」


肩を思いっきり揺すられてハッとする。あれ…?私寝てた?


「良かった!やっぱり夢だったんだ!これでイベント新刊落とさないですむー!!!」


思いっきり両腕をあげて喜んだのも束の間。目の前にはジトーっと私をみあげる見慣れたツインテールの女の子。なぜかセーラー服をきている。


「あれ?なっちゃん…今日コス参加なの?」

「は?梅子大丈夫?居眠りしてる間に変な夢でも見たのかやばい頭がさらにやばくなったのかどっちよ」


はやくご飯たべようよといってスクールバックからお弁当をとりだしている。鏡を取り出して自分をみるとなっちゃんと同じセーラー服をきて髪の毛も高校生の頃と同じ黒髪ボブだ。


(どうゆうことだ…)


どれが現実なのかわからずだんだん頭がこんがらがって来た。



「梅子ー、そういえばこの前話してたゲームやってくれた?」

「ゲーム?」

「え、もしかしてまだやってないの?ソフトまで貸したのにー!!やったら絶対にハマるから!きゅんパラ!」

「ん?きゅんパラ?あっ!!きゅんパラだ!」

「やっぱりもうやってくれたんだー!誰が推しになりそう?」


この会話覚えがある。そしてさっきの赤ちゃんの姿にも覚えがある。


ちなみにこの目の前のツインテールの女の子は私の幼馴染みのなっちゃん。なっちゃんはオタク仲間である。乙女ゲームが大好きでいつもプレイして良かったものはオススメして貸してくれたりして、その代わりに私も読んで良かった漫画やアニメを貸すという友達。


そしてこの話題に登った『きゅんパラ』、もといきゅんきゅんイケメンパラダイスというどうにもチープな名前のゲームをいたく気に入っていて私に押し付けて来たのだ。


きゅんパラとはいわゆる今流行りの"逆ハーレム"のゲームで、主人公でヒロインのライラ・ポールディという平民出身の子爵令嬢がイケメン達と多種多様な恋愛模様を織りなしていく乙女ゲームだった。そして、その中に出てくる悪役リリアナ・グランデュール公爵令嬢が先程の夢の美少女だったりする。


「顔は圧倒的に隣国のルイス殿下!!ライラにだけ優しい黒髪ブルベ冬男子大好物だよー。でもウィルソンは生理的に受け付けない…あの頭悪い感じが本当に無理…」


「梅子なら絶対そうやって言うた思ったよ、てかその二人以外パッとしない人が攻略対象ってどんなゲームよね」


個人的にはルイスの顔がトップレベルで好きだけど、出来るならちょっと頼りないルイスの国の魔術師団長のアスタと身分差悲恋ハッピーエンドがほしいんだけ…おっと、よだれが!


ほげぇーと頭の中で腐女子思考炸裂しながらゲームをしているのでたまに素敵シュチュエーションがくるとすぐにルイスとアスタに置き換えてメモを取ったりしている。


「ねぇ梅子、大人になったら二人で恋愛ゲームと恋愛本しか置いてない本屋さんつくろうよ!小さいお店で自分達の好きな物しか置かないの!」


「え!なっちゃん天才!!同人誌も置いちゃおー!」


想像しただけで楽しい。私となっちゃんのささやかな夢ができた瞬間だった。



「あ、やばい。もうこんな時間だ!なっちゃんかえ…」


ふと顔を上げたら目の前にいたはずのなっちゃんがいない。なっちゃんどころじゃなくさっきまで教室だったはずの場所が真っ白な世界になっていた。


「ちょっと…一体どういうことよ…」


「ねぇ、梅子。ちゃんと幸せになってね?ずっとずっと友達だから!約束、わすれないでね」


「なっちゃん!?どこ?なっちゃ…」



―――――――――



「あ…」


夢だったのか。まだポヤポヤしている頭を覚ますために用意された洗面器で顔を洗う。


顔を上げて鏡を見てももう前世の私じゃない。婚約破棄されたばかりのリリアナだった。



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