前世の私
「しかしお嬢様、婚約破棄なんてしてしまったら次の結婚相手が見つかるかわからないですよ」
中身はアレですけど見た目、所作、作法全てにおいてこんな完璧な方はこの国にはいないんですよ。とテティがブツブツ言っている。
「そんな事地獄のような特訓を強いられていた私が一番わかってるわよ」
そう、朝起きてから始まる妃教育という名の地獄の一日…
起きてから朝食までに三時間かけて身支度を整えてもらう。
朝食は肋骨折れるギリギリまでコルセットをしているので惜しみつつ数口程度。そこから四時間勉強をして昼食。その後また四時間のマナーやダンスの練習と勉強。たまに婚約者の殿下に会いに登城したり、王妃様のサロンや令嬢たちのお茶会に参加。夜ご飯を食べたら一時間の予習をして就寝。
こんな毎日を十年続けてきた。よくこれで発狂したり髪が抜け落ちたりしなかったと自分で自分を褒めてあげたい!!
こっちがこんな地獄のような生活してる中のうのうと他の女と遊んでるアホを見て、そりゃああのアホ王子の事を好きでいられるわけないわよね。ほぼ自分の時間などないくらいのハードスケジュールだからストレスなんてとっくの昔に私と一体化している。
でも、なんでこんな生活にも耐えられたかというと私にはストレス耐性がついている…
私は前世での記憶があるのだ。
前世の私。
桜田梅子。日本に住む30歳の職業キャバ嬢だった。キャバ嬢と言っても近年のキャバクラは昔みたいに大金が飛び交うわけでもないからOLにちょっと色をつけた程度の稼ぎしかない。
それでもお酒を飲んだら飲んだだけお給料は高くなるならば飲むしかない!私には稼がなきゃいけない理由があったから…
彼氏やホストだったならばどれほど良かったか。私がお金を使う理由は【推し】である。いわゆるオタクだった私は、手っ取り早く稼げて尚且つ時間に余裕のある職業にてをだした。
ただ、この仕事とてつもなくストレスがたまる!
おじさんのニンニクくさい息で繰り出されるセクハラ攻撃に耐えながらいつでも笑い、お店の前で待ち伏せしてるお客さんをかわし、推しのグッズをもう一セット買いたくてシャンパンもう一本と甘えて煽り、喉が切れるまで飲んで吐いてを繰り返す日々。
【全ては推しの為】
そう思ってストレス耐性を体につける修行のような毎日だった。
どれだけしんどくても家に帰れば推しが待ってる。推しの同人誌を読み漁り、最終的には自分で二次創作本を自費出版するまでに至った。
—————————
「終わったーー!!!!」
明日は同人誌のイベントへの出展を控えていた私は眠い目を擦りながらベッドになだれ込む。いつもよりも仕事が忙しくて進みの悪かった原稿。
「ヤレバデキルコヤレバデキルコ…」と自分に暗示をかけながら毎日睡眠二時間で描き抜いた。時計をみたらまだ夕方の五時。寝る時間は充分にある!
「頑張ったんだから推し君たちの夢みせなさいよねー…」なんて独り言も早々に眠りに落ちたのだった。
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