蒼雷は紅落の空に堕ちて

プロローグ



————俺は戦う為、殺す為に造られた。


『先生……この子……』

『ああ、例の新型という奴だろう。ったく、作一と同じくらいの歳じゃねえか……』


知の探求の果てか、その欲望を果たす為の道具としてか。

何が目的であったであろうと俺は兵器としてFHに造られた。


だから感情など刈り取られ、記憶さえも奪われて。

その行いに正義もなく、数多の命を奪い去って。



だから今も、変わらず命を狩る為に戦場を駆け回る。



「何でだよ……なんでUGNが俺を殺すっていうんだよぉ……!!」

『こちらゼロ、対象を目視で確認。交戦を開始する』

「了解。後方支援を開始する」

対象、UGNエージェント。コードネームを煉獄の怒りプルガトリオ。バディを失ったことから侵蝕率が急激に上昇しジャーム認定された男。

その戦闘スタイルはコードネーム通り高温度の炎を主体とした近距離戦。

「俺はまだジャームじゃねえ……お前らの方こそよっぽど……!!」

その情報通り、両手より繰り出された炎はコンクリートさえも溶かしてゼロに襲い掛かる。


だがその程度なら、俺も奴も幾度となく経験している。

照準一致ターゲットロック発射ファイア

「っ……ぐっ……!?」

手にしたマグナムでその脚を撃ち抜く。肉は弾け骨は砕け、男は体勢を崩す。

その隙をもう一人の相棒は決して逃さず、一歩踏み込みその柄に手をかけて。

「一之太刀—————、」

抜刀。

一閃、剣線が止まることなくその両腕を斬り落とす。

「っ……がああああああっ!!俺の腕が……俺の腕がああああっ!!」

「畳み掛けろ」

「言われずとも……!!」


「来んじゃねえ……来んなあああああっ!!」

もはや制御できぬ炎が彼から一気に噴き出し、何人たりとも近づけさせまいと視界さえも覆う劫火。確かにこの火力の前では刃も弾丸も融けて届かないだろう。

ただそれも、一人ならばの話。

ゼロ、射線をこじ開けろ」

『お前なら言うと思ったよ……!!』

一歩、奴は俺が言うよりも早く駆け出して刃を納めたまま一気にその劫火へと距離を詰める。

そして狙い定めるは一点。二人、同じ場所に狙いを定めて————、

「三日月……ッ!!」

一閃、刃が炎さえも斬り裂く。

鋼は溶けて形は失われど、確かに彼の剣線がその守りを拓いて。

「終わりだ」

撃発トリガー。弾丸が男の脳天を貫く。

脳漿と共に赤が散って、体への全ての命令が停止する。

それと共に炎は鎮まり、その中心には倒れ伏した彼だけが。

「死にたく……ねぇ……よぉ……」

声。まだ生きているのなら、やることはただ一つ。狙いを頭に定めて、引鉄を引く。


————銃声。

二回、空に響く。

声は消えて、息を確かめる。オーヴァードはその脳が完全に死ぬまで再生するから油断はできない。

脈動なし。彼が完全に死んだことを確認して、相棒が無線を開いた。

「……こちらゼロ、任務完了。ヌルと共に帰投する」

『二人ともご苦労だった。後処理はこちらに任せてくれ』

「了解」

報告を終えれば、彼が倒れた男の胸ポケットを漁る。

「何をしている」

「……この人、まだジャームが確定したわけでもねえし、帰る場所もあった筈なんだよなって」

彼の手には、家族と笑う彼の写った一枚の写真。

「ジャーム化は時間の問題だった。ならば危険は未然に防ぐべきだ」

「……分かってる、つもりだけどよ」

「なら俺たちがやる事に変わりはない。日常を守るのが俺たちの使命だ」


————そう、やる事は変わらない。

日常を守る為に引鉄を引く。その繰り返し。

それが俺の生きる道で、俺の存在意義。


それがあの日までの、俺の在り方だった。


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