第四報 新人調査官

新たなメンバー

 バチとザイが所属する組織は通称 裁き屋(コート)と呼ばれている。その組織の詳しい人数や組織内部の情報は明らかにはされていない。


 闇社会には闇社会のルールがあり、それぞれの屋号を持つ闇組織が協定を定める協会に属し、それぞれの『』が協力関係や敵対関係を持つ。

 その協定を定める協会の名は『room《ルーム》』と呼ばれ、多くの謎に包まれた組織である。『コート』は、その『room』に多数存在するでしかない。



 夏も終わりに近づくも残暑が厳しい今日この頃。『コート』の指示により『事務所』に顔を出したバチとザイ。


「今回は組織からの直依頼かな?」

 ザイは畳に寝転がりながらバチに言う。


「だろうな」

 バチは相も変わらず無表情である。



 バチとザイが受ける依頼には大きく二つがある。一つは自らが直接依頼を受け、組織の決済を経て実行する依頼。但し、緊急性を要する場合前後する実行と報告が前後する時もある。そして、もう一つは組織本部からの直接依頼である。


 主に前者の場合、実行部隊つまりバチとザイとは別に調査官がサポートにつき依頼人との間の役目を果たす調整役が存在するのであるが、二人はそれを嫌っていた。自分達のペースで……というのが二人の持論だったからである。


 二人が事務所に集まりしばらくすると、バチは吐き出し窓を方を見る。

「何故、お前はいつもそこからなんだ?」

 

 バチの言葉を聞いたザイはバチと同じ方向を向きため息をついた。

「またお前かよ……」


「またって何よ! 前の案件ではお世話してあげたでしょ。ちょっとくらい感謝しなさいよ」

 華那である。『調査官』の華那は吐き出し窓から身をひょっこりと顔を出していた。


「お前が来るって事は結構な依頼なのか?」

 バチは華那に尋ねる。


「いえ、今日はあなた達に新しいパートナーを紹介しに来たの」


「華那の?」


「いえ、あなた達ののよ」


 二人は素早く首を横に振る。


「いらね」

「それは遠慮しておこう」


「相変わらずね。でも、優秀な新人さんよ。毎回金欠貧乏のあなた達には良いと思うんだけどな……」


 華那の発言に、バチは即座に言い返そうとした。

「俺達には信念があり……」


「あーわかった、わかった。とりあえず玄関から入るから待ってて」

 華那はバチの話を遮ると、玄関の方へ回ると居間の扉を開けて部屋の中へ入る。


「いいわよ。あなたも入ってきて」


 華那が連れて来た新人が部屋に入ると、バチとザイは驚き互いを見合った。


「新人*調査官のシヅクです、今日からお世話になります。よろしくおねがいします」


山下やましたしずく!」

 思わず大きな声を出すザイ。


「おっとザイ、本名は禁止よ」と、華那は注意する。


 察したようにバチが

「先日の笠松千鶴の孫を寄越したのはお前だったのか?」と、シヅクに問う。


 シヅクは答えた。

「それだけじゃなくて、その他の総勢8名の依頼者の情報を流したのも私! 前に言ったでしょ? 女性の助手は必要ないかなって……」


「…………」


 少しの沈黙後、バチとザイが口裏を合わせたかのように言った。


「お帰りください」


「なんでよ!」と思わず声を荒げるシヅク。


「本部の決定は絶対! 忘れたの?」

 華那はバチとザイに言う。さらに続いて

「第一あなた達は仕事にムラがあり過ぎるの! このままいけばそのうち組織から重大なペナルティー受けるわよ」

 

「でも、俺達今まで二人でうまくやってこれたぜ」と、ザイはこれに反論。


 華那はザイに指を差し

「すぐ感情的になり思いのまま暴走する執行官」

 次にバチに指を差す。

「頑固者で意地っ張り。「信念が」とか言って、考えを絶対曲げない堅物執行官」


「あなた達古すぎなのよ!」


 もっともな事を言われ、ぐうの音も出ないバチとザイにたたみかけるよう華那は言う。「アンタ達には調整役が必要なの。これ本部の決定!」


 華那はバチの前に座り、バチの太ももに軽く手を添えた。

「私はあなたが心配。昔の事はとやかく言うつもりはないけど、あなたにはもう少し頼れる仲間が必要だと思う」


 バチは「ふうっ」と息をつき、シヅクに言った。

「俺達の仕事は簡単じゃない。嫌な思いもするし残酷な事もする。

そして、失敗をすればそれは自分に返ってくる。覚悟はあるのかい?」


 シヅクは深く頷く。

「わかってるよ。でも、私にはもうこれしかない」


 ザイはそのやり取りを見守るように沈黙していた。


「そうか……」

 ザイは下を向き答えた。


「決定ね」


「いや、一度試してみるだけだ。下手を打てば即行クビにする」


「いいわよ、それで」

 華那は微笑むと、立ち上がり出口の方へ歩き出す。

 シヅクとのすれ違いざまに

「じゃあ、後はよろしくね」とシヅクの肩を叩き、そのまま帰って行った。


 シヅクは胸元からメモ帳を取り出すとそのままバチとザイに依頼内容を伝える。


「今回の依頼は本部からの直接依頼です。受けます?」


 バチとザイは小さく頷き答えた。

「ああ、詳細を聞こう」

「当たり前だ」


 この日、バチとザイに新たなパートナー『シヅク』が加わった。



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