第三十三話 「異端、乱入」
轟音。
「な、何だ!?」
「ーーっ!?」
突如として、俺とトウギの間に割って入るように何かが上から降ってきた。
土煙が舞い、闘技場にいる者達をその行動と音で一瞬で黙らせてしまった。
俺は後ろに咄嗟に避け、その場で立ち尽くす。
トウギの安否は分からない。
やがて、中から誰かが出てくる。
コツコツとその正体不明の乱入者の足音だけが鳴り響く。
そしてどこからともなく強風が発生し、土煙を霧散させた。
「決闘なんてただの遊びだ、遊びでマジになるなんざ馬鹿みてえだろ。ーーもっと殺し合えよ。そうすれば、自然と命懸けの
若干狂気じみたセリフを吐いて、姿を現す。
殺し合い?
コイツは一体何を言ってんだ?
頭大丈夫か?
ていうか、コイツどこかで……。
「まあ安心しろよガキども。今回はその目的で来た訳じゃねぇからな、すぐにやる事やったら消えてやるよ」
「ーーじゃあ今すぐ消えろや」
キンッッ!!
突然乱入者の後ろからそんな金属音が聞こえてきた。
トウギだ。
血相を変えてソイツに剣で奇襲したのだ。
お、おいいきなり襲いかかっても大丈夫かよ!?
と、思うのも言うのも止めるほどの出来事が早くも起こってしまった。
「おいおい……随分なご挨拶じゃねえか。ええ?」
剣だ。
いや、正確には剣のような形に作られた
溢れ出る風圧がこちらにまで伝わってくる。
それがトウギの剣撃をピンポイントかつ平然とした顔で防いでいる。
俺にはトウギの剣の動きが全く見えなかった。
速度と重さを兼ね備えた剣技だった、はずだ。
にも関わらず乱入者はその一撃を軽々と防御し、片手で押し返してそのままキンッ! と弾く。
「ちっ……!」
トウギは攻撃が無になったのを確認してソイツから一旦距離を取った。
だが乱入者はそれを追いはせずに、余裕の持った佇まいで闘技場全体を見渡す。
「まあ落ち着けよ、じゃないと殺したくなっちまうだろ?これでも一応精一杯の我慢はしてるつもりなんだよ」
トウギが小物のような扱いを受けたのを目の当たりにした生徒達はざわつき始める。
「お、おい? 誰だあれ?」
「なんか殺すとか言ってなかったか?」
「ちょっと、先生達を呼んだ方がいいんじゃ……」
「…うるせえな、これだからガキは嫌いなんだ。おい! さっさとやれ! いい加減早くしねえと皆殺しにすんぞ!」
突然そんな事を叫び出す。
一体何なんだよこいつは!
いやもう意味がわからない。
取り敢えずだが、ここから離れたほうが……。
「ーーもう、せっかちさんね。今出来上がったところよ」
闘技場の上の方から声が聞こえてくる。
女性の口調だが、声色は男のものだとわかる。
俺は上を見上げてみた。
そこには、闘技場の一番高い柱の上に人が立っていた。
独特のヘアスタイル、そして灰色の服を身に纏っているのが確認できる。
一体そこで何してんだよ?
もしかして、こいつの仲間か?
パチンッ。
そんな、小さな音が聞こえてくる。
例えるなら指パッチンをする音ーー。
「あ、れ?ヤバい意識が…………………………」
その音を聞いた瞬間。
俺の意識は、たちまち暗闇の中へと消えていった。
**
「………何故、ここにいる?」
タリアは理解できない。
今あるこの状況に、理解しようとしなかった。
忘れもしない、
最も警戒しなければならない敵が、今目の前にいる。
どうして?
侵入防止の警備体制はどうなっている?
突破されたのか?
いや、考えにくい。
それならこちらに警報くらいは入ってくる。
「……校長先生」
分からない。
何故奴が、何故アイツが、私の学園にいるんだ!!
今までどこにいたんだ。
何の情報もまだ手に入れていない、何故こんな時に侵入を……?
「こ、校長先生っ!!」
「…………はっ」
「大丈夫ですか? ずっと呼びかけていたのですが…」
「だいじょ………いや、大丈夫ではないが」
私は冷静になり、今やらなければならない事をまず教員達に伝えようとする。
「皆さん! 今すぐに生徒達を避難させてください! アイツは今動いていません、気が変わらない内にーー」
「ーーもう、せっかちさんね。今出来上がったところよ」
そんな声が私の耳に入ってきた。
闘技場の柱の上、そこに何者かが立っているのが見える。
明らかに、この学園の関係者ではない。
パチンッ。
小さな、破裂音がした。
その途端に、私の意識が何かに狩られていくのがわかった。
すでに周りの者達が、座っていた者は席から崩れ落ち立っていた者はその場に倒れていく。
「これは、精神干渉か……!」
若い頃、まだ私が最前線で戦っている時に何度も食らった事のある嫌な魔法だ。
私には効かない
精神に干渉する魔法の耐性スキルを持っているはずなのに、それを掻き消すほどの凄まじい練度を誇るそれが降りかかってきたのだ。
「な、んだ? この強さは……!?」
レジストできない。
あと数秒もすれば私は動かなくなってしまうだろう。
今ここで倒れるのはまずい!
敵がまだそこにいるんだ。
それに生徒の安全がまだ………。
「あら? まだ支配されない人がいるなんて驚きね。私、結構自信あったのだけれど」
男の声だ。
おそらく柱の上に立っていた、敵の仲間。
気がついた頃にはもう私の目の前まで降りてきていたらしい。
「おま、えら……一体なにを……」
「それは言えないのよ。ごめんなさいね? ただ、…近いうちにこの国でーーが起きるかもだから備えおいたほうがいーわ。私殺し合うのってあんまりーきじゃーーのよね〜。今日はーーを連れて帰るだけだから、気を楽にーーお眠ーなさい……」
もうコイツが何を言っているのか理解ができなくなっていた。
こんな技術と精度の高い魔法、並の人間には到底できない。
私をこんなに早い段階で落とす強者。
闘技場に襲撃した風を纏う者、
アイツだけは、見間違う筈がなかった。
一体今までどこに隠れていたのかもわからない。
厳重に警備と捜索をしていた筈だったが、痕跡すらも見当たらなかったのだ。
大胆不敵な乱入と攻撃、それに当てはまる敵はこれを除いて一つしかありえないだろう。
「せか、い、きょうだい…………」
世界共大悪。
そしておそらくその一派の一人。
憎き世界共通の大悪党。
ああ、不覚をとったな。
最上位聖騎士である者が、こんな…時に……。
……………………………………………………。
**
……あれ?ここは、どこだ?
俺は目覚めた。
ただし現実の世界ではない。
一面暗闇の世界で、だ。
完全な黒ではなく体は見えるほどのうっすらとした闇の中に、いつの間にか立っている。
ーー何が起きた?
ちょっとだけ整理してみよう。
まずトウギの決闘している最中に誰かが勝手に参戦してきた。
トウギの様子を見る限り、この学園の関係者ではない。
あの乱入者を知っているのだろうか?
俺達に向けるものとは別の、明らかな殺意があの攻撃には込められていた気がした。
次に、何か音がしたんだ。
指を鳴らすような音だ。
それを聞いた瞬間、俺はこの暗闇にいた。
自分で言っていて何がなんだかわからない状況に陥ってしまっている。
原因は考えるまでもなく視認できたあの二人。
彼らは一体何者なんだ?
普通ではない事は確かだ。
……これからどうすればいい?
一刻も早くここから出なければならない気がするんだ。
こうしてる間に、アイツらが何をするのかもわからないのが怖い。
そんな事を考えていると、突然前から足音が聞こえてきた。
なんだ?
誰かが、こっちに来るな。
コツ、コツ、コツ、コツ。
俺の少し手前で止まる。
その姿を一応は確認する事が出来た。
背丈はほぼ同じくらい、体格は細く、多少鍛えられた筋肉があるので性別は男だろう。
だが首から上が見えない。
黒く塗りつぶされたように、闇がその顔を覆ってしまっている。
なんだ、コイツは?
何でこんな所にいるんだ。
「ーーまーーか。ここーーーのーーだーーー」
何か、言っている。
上手く何を言っているかはわからない。
「はーく、ーーれ。でーーと、ー前を、ーう」
俺に何かを伝えようとしているのか?
て言うか、人と話す時はもうちょっとこっちに来なさいよ。
聞き取りにくいでしょうが。
俺は距離を狭める為に、一歩踏み出そうとーー、
「ーー行っちゃダメだ」
したら、誰かに腕を掴まれて近づくのを阻止された。
強い力だ。
俺を向こうに、あるいはそいつのいる方へ絶対に行かせないと言わんばかりの力が込められている。
な、なんだよ今度は誰だ!?
俺は後ろを振り返る。
ーーそこには、ラバンがいた。
今まで俺に戦闘以外で見せた事のない、必死そうな顔をしているラバンが俺の腕をがっしりと掴んでいる。
ら、ラバン!?
なんでここに………?
「アイツの所へ行っては、ダメだ。
またもやよく分からない事を言っている。
そんな事よりも、ラバンの姿を見て、俺は何も言えないほどの驚愕を露わにしていた。
「ら、ラバン? こんな所で何を……」
なんとか声を出してラバンに話しかけると、悲しそうな、寂しそうな顔をして俺に言う。
「ここに長居してもダメだ、ここは歪んでいる。俺も、幻みたいなもんさ」
幻?
本当に、何を…………。
「さあ、早く起きて、立ち上がれエバン。そして、
ラバンがそう言った瞬間、暗闇をとてつもない強さの光が真っ白に塗り替えていく。
「ら、ラバン! 俺はまだ話したい事がーー」
もう届かない。
ラバンも、正体不明の奴も光に呑まれてしまった。
俺の意識が、切り替わる。
俺は今度こそ、現実世界で目を覚ました。
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