第七話 「父親」
「――諦めるな!!!」
それは、折れかけていた俺の心を無理矢理戻さんとばかりに叫んだ。
そこには、この村で一番熱意に溢れた者、ラバン・ベイカーが俺を庇うように立っていた。
「……お父さん? な、なんでーー」
「まだお前は死んでいない!! だから決して諦めるな!!」
ラバンの両手には、絶望を跳ね除けるような、金色に輝く救済の光を放っている剣が握られていた。
もう助けは来ないと思っていた。
俺は自覚できないほどのクズで、誰かに何もしてやれなかったのに、お前はどうして俺を助ける?
「どう、して、来たんだ!? もう、助からないってわかってたんじゃないのか!!」
「俺はお前の父親、お前は俺の息子だ!! 助けに来るのは当たり前、如何なる時でも無事を願う。そうでなければ、そいつはもう親とは言えない!!」
「――それだけの、理由で?」
生きているのかもわからない状態で、ここに来たのか?
何というお人好しだ。
……いや、何という親心だ、俺の中身はクズなんだぞ?
「痛いよな、今にも死にそうだよな。だがもう安心だ!! 俺が来たからには死なせない!! なんとしても守り抜く!!」
こんなこと、前世でも言われたことがない。俺の瞳が徐々に光を取り戻してゆく。
「それが、子を愛するってことだ!!!」
しばらく、忘れていた。
彼は、ラバン・ベイカーは。
――この村で、いやこの世界で最も「愛」に熱い人間だという事を。
「おや? 貴様、誰かと思えばラバン・ベイカーではないか! おお、これはなんという偶然! なんという運命だろうかっ!!」
「……お前、バールか? まさか……あの状態で生きていたのか!?」
「ああ、もちろんだとも! 私があれくらいで死ぬはずがないだろう? ラバン・ベイカー!!」
彼らは昔会った、いや殺し合ったのか?
バールと呼ばれる悪魔はラバンを見ながら憎しみの込めた眼で睨みつけ、狂気に満ちた笑みを浮かべる。
「
怨鬼の槍と呼ばれる魔槍は回転をやめ、ゆっくりとバールの手へと戻る。
「――失望させてくれるなよ?」
そしてバールはラバン目掛けて急降下し、恐ろしい速さで攻撃してくる。
だが、ラバンはそれに対応する。
光の剣と闇の槍がぶつかり合い、鋭い金属音が周囲に響き渡った。
ラバンとバールは激しい攻防を繰り広げる。
「――くっ!!」
「私は生まれ変わった! 今度こそ貴様らを蹂躙してくれる!『
「はっ! かつて『
「……信じられない」
あの悪魔と互角に渡り合っている。ラバンは鍛治師だ、剣術のスキルなんてないはずなのに。
あの金色に輝く剣の能力か? 俺の武器能力理解では、まるでフィルターがかけられたように剣の能力の全容が読み取れない。であれば武器のランクはA+を軽く超えている。
ラバンはバールの槍を弾き、バールの身体に剣の一閃を入れようとする。だが、バールはその攻撃を嘲笑うかのような速さで避け、逆にラバンへと突きの一撃を入れる。
「――ぐっ!?」
ラバンはそれを避けようとするが、脇腹に刺し傷を負う。
「衰えたな鍛治師、やはり輝剣の力を全て引き出すには仲間の援護が必要か?」
「……はぁ、はぁ! お前はあの時よりも、大分腕を上げたよう、だなっ!!」
ラバンの勢いのペースが少しずつ下がってきている。その一方で、バールの攻撃の速度は先ほどよりも上がっていた。
「……畜生っ!! エバン!! 逃げろ!! 東の教会まで、走れ!! そこにもうすぐ王国の聖騎士団が到着する!!」
「なるほど、教会か! 魔属性を寄せ付けない聖なる認識阻害、どうりで魔力探査が働かないわけか。考えたではないか」
教会? そこにみんな逃げていたのか、そんなこと誰にも教えてもらってないぞ!
俺は地面から起き上がり、足を動かそうとする。さっきまで恐怖に支配されて動かなかったが、ラバンが来てくれたおかげで大分回復した。
一向に痛みが引かない左肩を押さえて、教会に向かおうとする。
「どこへ行くのだ? お前はこの鍛治師の息子なのだろう? ならば、尚更生かして帰すものか!!」
俺の前に音速の速さで移動したバールが行手を阻み、槍の一撃を食らわせようと、
「――あ」
「子供は大人しく、死ね」
俺は反射で目を瞑ってしまった。
「…………」
どうなった? いくら待っても槍の攻撃による痛みは訪れない。俺は、ゆっくりと目を開け……、
「……ぁぁ、か、はっ!」
そこには、バールの槍に胸を貫かれたラバンがいた。
「……あ?」
俺は訳の分からない状況に、間抜けな声を出してしまった。
「なんと呆気ない終幕なのだ、ラバン・ベイカーよ。貴様には俺をもう少し楽しませてくれると期待していたのだがな」
バールはラバンに刺した槍を勢いよく引き抜く。
「…お、おい? ラバン? え?」
ラバンが大量の血を流しながら地面に倒れている。
「では次は……貴様の番だ。息子よ!!」
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