孤独な世界
バブみ道日丿宮組
お題:愛すべき世界 制限時間:15分
孤独な世界
夢から覚めるときは、いつも涙を流してる。
「ん……」
夢の内容は覚えてない。
それが悲しかったのか、辛かったのか、悔しかったのか。あるいは楽しかったのか。
思考力が戻ってくる頃には、涙のわけを忘れてしまってる。
1つだけ覚えてる、意識に残ってることがあるとすれば、それは自分が主人公ではない夢の世界ということ。
夢とは記憶の整理を兼ねてるというが、別の誰かになってるのを見るというのはいったいどういうことなのだろうか。
知らない誰か。出てくる人はみんなそう。親でも友だちでもない。有名人でもない。顔はわからないがそれは確かなこと。
「……」
天井を見つめる。
そこにはいつものシミと、同棲してる蜘蛛が見えるばかり。
現実の世界は夢の世界より、夢がない。
たとえ、殺される夢だろうが、いじめられる夢だろうが、脅迫される夢だろうが、現実の痛みはひりひりと痛む。
そこに生命を感じることもあるらしい。
先生はそんなことをいつも話してくれるが、わたしにとってはただの傷口。人は敵でしかない。
だからこそ、夢の世界だけは幸せ、愛すべき世界であってほしい。
「……」
自分の左手は傷だらけ。ナイフで抉ったものばかりだ。この傷がある限り、わたしは幸せを現実に感じない。いつまでたっても、外の世界に出れない。
「起きましたか」
「……はい、いたんですか」
ベッドの脇にある椅子には白衣をきた先生が本を読んでた。
「そろそろ起きる頃だと思って待ってました。どうですか、体調は」
「……はい。いつもと同じだと思います」
「結構、結構。顔色は大丈夫そうですね。いつもよりも明るい」
「……そうですかね」
先生はそれから、診察をした。
新たにできた傷跡の処置や、処方薬、監視カメラの確認。
「あなたが行為にはしるときにかけつけてあげたいものですが、他の患者もいますのでなかなか」
「……いいですよ。そしたら楽になれるわけですから」
はぁとため息。
「あなたがここにいるのは幸せなことなのですよ。今日はこの本を置いておきますから読んでおいてください」
読んでたと思われる本をわたしに手渡してくる。
「集中すれば、他に意識を奪われることも少なくなります。物語の中にも幸せはあるのですよ」
先生の言ってることはあまり理解できないが、先生の持ってくる本はどれも面白かった。
自傷行為を多少なりとも抑えることができてた。
「それではまたきますね。睡眠薬はいつもの時間に投与されますので、きりが良いところで本は脇においてくださいね」
一度点滴に目を向けると先生は病室から出ていった。
孤独な世界 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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