Conditioners



     ◆



「すまないな、【銀獅子】。作戦行動に支障はないか?」


「はっ。周囲に"現時人"の存在は認められず、通信可能と判断します」


「宜しい。では早速だが、本題に入ろう。統合本部より新たな指令が下った。君には新たな任務に就いてもらう」


「任務……ですか? しかし、ジル……いえ、”魔王”の抹殺は……」


「無論、”銀の時計盤作戦”の中断はあり得ない。しかし、先だって優先度の高い目標が設定されたのだ。

 ……時に【銀獅子】よ。我々の観測状況が正しければ、来週にはガスト魔術学院で魔術競技大会が催されるはずなのだが……」


「はっ! その通りであります」


「そうか。では、その種目の一つ『決闘』に、2年F組所属のロバート・バージェロンの参加は見込まれるかね」


「本日のクラスミーティングでは参加の表明をしておりましたので、間違いはないかと」


「やはりか……」


「上官殿、お言葉ですが……それは任務と関連する事項なのですか?」


「む? ああ、すまんな。任務の内容を伝える前に、過去そちらの状況を確認しておきたかったのだ。

 どうやら、我々の歴史的な観測と齟齬はない様子。改めて、ブリーフィングに移る」


「はっ!」


「【銀獅子】よ、君も『決闘』に参加しろ。……そして、ロバート・バージェロンを優勝させるのだ」


「…………はっ?」


「どうした。気の抜けたような声を出して」


「いえ……失礼しました。しかし、その……恐れながら、作戦の意義が見えてこないのですが?」


「まぁ、真っ当な反応ではあるな……。しかし、どこから説明したものか……。

 そうだな……。まずはロバート・バージェロンについてだが、氏が我々『極光師団メアリヒト』の創設者であるというのは知っているか?」


「なッ……そ、そう、なのですか? ……私の認識下では、『極光師団メアリヒト』創設者の名は、ルーク・アインホルンであると……」


「やはり、か」


「……?」


「過去干渉の影響が出始めている。我々としても、つい先刻までロバート・バージェロンの存在を認識していなかった。スヴェトラーノフ式固定認知系列函に基づき、この"変動"が観測されたばかりだ」


「なるほど……。まさか、我々の始祖と後の魔王が同窓の縁になるとは……」


「当変動によるその他の甚大な影響は未だ確認されていない。これを観測誤差と見做すべきか、少しでも"現在みらい"が変わったということを喜ぶべきかは悩むところではあるが……」


「……状況は理解しました。しかしながら、それと私が今回の『決闘』に参加するのとは一体どういう……」


「どうやらロバート・バージェロンが『極光師団メアリヒト』の創設を志すきっかけとなったのが、まさしくその『決闘』であるようなのだ」


「たかだか、学校行事の模擬戦闘が……ですか?」


「その経験の価値は本人にしかわからんものさ。……そうだろう、【銀獅子】? ともかく、その『決闘』で拮抗した試合を制し優勝する。これが氏にとって、ある種の転機となったのは間違いない。

 確かに、ロバート・バージェロンが優勝せずとも、他の何者かが『極光師団メアリヒト』を組織することは十分考えられる。"ルーク・アインホルン"がそうしたように、な。しかし我々は、この機を逃すわけにはいかないのだ」


「…………それは、一体……?」


冷暖房エアコンだ」


「?」


「ロバート・バージェロンが組織の創設者であると認識された、それと同時のことだ。……『極光師団メアリヒト』各支部に、最新式の空調設備が導入されていた"形跡"も確認された」


「……!?」


「…………わかるな?」


「はっ。つまり、組織としての"力"──この場合は、設備ですが──それは、アインホルン発祥の『極光師団メアリヒト』よりも、バージェロン発祥の『極光師団メアリヒト』のほうが上である、と」


「……ん? え、ああ……そう、その通りだ。作戦遂行のために、我々はより強大な"力"を飼い慣らす必要がある」


「……そのためにも。私が『決闘』に参加し、他の参加者を妨害してでも、ロバート・バージェロンを優勝させればよいのですね?」


「いや。少々認識にズレがあるようだな、【銀獅子】」


「……はい?」


「大事なのは、辛くも・・・優勝することだ。ベストバウトを演出しなくてはならない。バレバレなヤラセをしては、かえって歴史を歪めかねん」


「演出……」


「そうだ、接待だ」


「接待……」


「……不安か?」


「自分はそういった芸当は、いささか不得手でありまして……」


「言われずとも分かっている。しかし、君にしか出来ないことなのだ……。君の愚直さは確かな美徳だが、腹芸の腕を磨くのも、遅かれ早かれ必要なことだろう」


「…………最善を尽くすことを、ここに誓います」


「それでいい。期待しているぞ【銀獅子】。重ねていうが、ロバート・バージェロンは偉大な創設者だ……くれぐれも丁重に接するように。私からは以上だオーバー

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