光の王宮から追放された第4王女(元)ですが、魔術学院で闇魔法を極めながら悠々自適に過ごしていたら、100年後の未来からイケメンの刺客が差し向けられちゃったみたいです
Smelling what I'm stepping in...
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◇
はて、じょーし? ……上司? リオンの?
つまりなにか、私を殺そうとしてるヤツが組織作るほどわんさかいるってことか?
「ジル・ソーリス殿」
私が呆気に取られている内にも、ボイド氏の悩ましげなバリトンが私の耳朶を打つ。
「君がこの携帯を持っているということは……。どうやら、リオン・アージェントは返り討ちにあったようだな」
「あのー、ミスター・ボイド?」
この世の終わりを見たみたいな声音でべらべら喋るボイド氏を遮って、私は言葉を投げかけた。
「貴方が、リオンに私を殺せって命令出したんですか? 未来の魔王だかなんだかは存じませんが」
「……正確を期すれば、私もまた、"作戦" の一員に過ぎないが……そうだな。
ボイド氏はきっぱりとそう言った。
謎の銃しかり、このケータイとやらもしかり。
どうやらリオンは、ホントに100年後からやってきたようだ。荒唐無稽な話だが、ここまでくると信じざるを得ない。
というか、ボイド氏のような理性的な口調の大人が、リオンのごっこ遊びにつきあわされているとは思いにくいし。
「全ては光溢れる未来のために、だ。しかしそうか……リオン……惜しい人材を無くした……」
顔は見えずとも、部下を偲ぶ悲哀の情はなんとなく伝わってくる。
…………ひょっとして私、リオンを殺したって勘違いされてる?
「あの、リオン、生きてますよ。フツーに」
「なに……? そうなのか? では何故君がケータイを持っている。
「それは……あんまりしつこく襲ってくるから、ちょっとしたお仕置きというか……危ないから没収したというか……」
「お仕置き、だと……? まさか、捕虜にして拷問を……!?」
「眠らせただけです」
「
「眠らせただけです! 言葉通り!」
なんとなく、この人が
「そうか……。いや、声を荒げてすまない。しかし、彼がここまで手を焼くとはな……」
「私が申し上げるのもなんですが……人選ミスでは?」
特に、おつむが足りないところとか……言わないけどね?
「何を言う。彼は、対個人戦闘のプロフェッショナルだ。まだ年若く、些か思慮に欠ける部分はあるが、実戦において彼の右に出る者はそういまい」
あ、バカなのはわかってたんだ……。
「じゃあ……人数増やすとか。たぶん、リオン1人じゃあちょっと厳しいんじゃないかと」
「君……一体どういう立場でものを言ってるんだ?」
「…………」
リオンといい、この人といい、急にマトモなことを言い出すのはやめて欲しい。
なんだか私だけバカ言ってるみたいな空気になるじゃないか。
「ともかく、過去に人間を送るというのは、そう易々とできるものではないのだ……金銭的にな」
過去と接触することで未来に影響がー……とか、その手の思考実験に良くある理由かと思ったら、全然現実的な話だった。
想像してたよりも、未来は未来で世知辛い。
「そういうことでしたら、彼にはもう未来にお帰りいただけませんか。別に私、
「そういうわけにもいかない」
「……なぜ」
「確かに、
それこそ、その人物を歴史上から消し去る程のことをしなければ、ジル・ソーリスが魔王になる未来は変わり得ない……とボイド氏は続ける。
「うーん……。そもそもの話になりますが、なぜ私は魔王になったのですか?」
「不明だ」
「不明」
「無論、我々も全力をあげて調査をしている。だが、君の生涯の全てを捕捉することは、未だにできていない」
ボイド氏は遺憾であるとばかりに、少しため息をついた。
「15歳にしてガスト魔術学院に入学し、卒業を目前に消息を断つ。そして、その後突如として歴史の表舞台に現れ、世界を闇で覆った……。ジル・ソーリスについて、我々で把握している情報はこれだけだ」
え、私、ここ卒業できないの……? 一応司書官志望なんだけど……。司書官の資格とるのに卒業は必須要件なんだけど……。
というか、世界を闇で覆うって……なんだ? まるでイメージが湧かないぞ。未来人特有の比喩か何かか。
「あの──」
ボイド氏の未来予想に眉根をひそめていると、背後から突然、何者かにケータイを奪われる。
「ひぃっ!! …………なんだ、リオンか」
話に夢中で全然気が付かなかった……。不審者だったらどうしようかと思ったからホッと……いや待てこいつも大概不審者だな。
「ねえ、ちょっと。ここ、私の部屋──」
私が文句を言う前に、リオンは私の口の前に手を突き出して、暗に静かにしろと言ってくる。
反射的に私が口を噤んだのを見て、リオンは電話越しの上司に姿勢を正した。
「こちら【銀獅子】。現時、○一○○を以て定時報──申し訳ございません! しかしこれにはワケが──いえ、その通りであります!!」
それからは、私の視線なんか気にせずリオンはずっと電話口に「はっ……!」だの「はい!」だの堅苦しく返答していた。
……ていうかこいつ、最初しれっと誤魔化そうとしてなかった?
「──それでは、失礼致します」
やがて通話を終えたリオンは、少し
「ボイド殿が『話の途中で終わって申し訳ない』と仰っていた」
「へ? ……あー……律儀だね、怨敵だろうに……」
……いや、問題はそこではない。
「……ここ、女子寮なんだけど?」
「そうだな」
「男子禁制なの、知ってる?」
「無論だ。校則を
「いや……だから……。どうやって、入ったの」
「窓だ。……悪いことは言わん、施錠くらいしておけ」
おかげで手間が省けたがな、なんて何食わぬ顔で棒状の工具を掌でころころと遊ばせるリオンに、私はひどい眩暈感を覚えた。
「案ずるな。目的を果たせば
そう言って、リオンは仏頂面のまま私の部屋をジロジロと眺める。目的とは一体。
私の冷たい視線なんてどこ吹く風で、しばらくするとリオンはタンスの引き出しに手を掛け始めた。……は?
「ちょっと!」
「その手をどけろ。装備を回収したら、大人しく帰る」
「そーゆー問題じゃないでしょ! 非常識! 変態!」
「なッ……! 元はと言えば貴様が奪ったから──」
「突然襲うから! それに、ちゃんと反省したら、返そうと思ってたの!」
「突然じゃなければいつ襲えというんだ!」
「お、そ、う、な!」
もうめちゃくちゃだった。
室内を物色しようとするリオンの手を掴んで、リオンは彼を制止する私の肩を掴んで。こんな深夜に言い合いしながら取っ組み合ってたものだから……。
そりゃあ、近くの部屋の者は目を覚ましかねないだろう。迂闊もいいところだった。これではリオンやボイド氏をバカにできない。
「ジルっ! どしたの、大丈夫!?」
勢いよく、私の部屋の扉が開け放たれる。
「あっ……」
パジャマ姿のギャルだった。手には魔杖と……びしょぬれの一輪挿し。きっと、隣の部屋の私が何者かに襲われたと思って、手近な武器を両手に駆けつけてくれたんだろう。いやまあ、その通りなんだけど。
……ギャルだけじゃない。何人かの女子生徒が、ギャルを旗頭として私の部屋を覗いていた。みんないい奴かよ。
そして、私の部屋にいるもう1人がリオンだとわかった途端、誰ともなく「あらあら……」と口元を押さえ、頬を赤らめだす。
「あはは……。お邪魔しちゃった……?」
ギャルの少し気まずそうな笑顔に、私は力なくその場に崩れ落ちた。
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