氷でまじない

多聞

コンビニ

「氷を買いに行く理由? そんなん決まってるやろ」

 そう言って先輩は得意気に振り返った。

「祓うためや」

 何をだ、という疑問が顔に出ていたらしい。炎天下の下、先輩は滔々と語りだした。

「古来から氷は神聖なものとされてたんは知ってるやろ? 初めてかき氷を食べたのは清少納言だ、なんて言われてるけどとんでもない。俺はな、それより前から氷を食べる習慣があったと思ってる。では何故人類は大変な苦労をして氷を作り、それを食べていたのか」

 答えを待っている様子だったが、分かるわけがない。俺は目線で先を促した。

「それは穢れを祓うためや。あの常軌を逸した冷たさ、鳥肌が立つ感覚、迫り来る頭痛! もう、祓うために存在する食べ物って感じやんな」

 汗一つかかずに、先輩は楽しそうに語り続ける。

「あと儀式に使う氷はな、ガリガリくんのソーダじゃないとあかんねん。食べ方ってのも厳密に決まってるんや。まず表面のサクサクした部分を、フォークで削ぎ落とすやろ? ほんで、棒に残ったガリガリくんを南南西向いて食べるんや。一言も喋らずにな」

 それは恵方巻きの要領では、と突っ込もうとしたが、先輩は既に歩き出してしまった。コンビニはもう目の前だ。コーラ味じゃ駄目なのかなと思いながら、俺はあとを追った。

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