第2話 お兄ちゃん、あの話をして!

 ディアが食堂で一服していると聞きなれた声がした。オレンジジュースを飲み干してから声のする方を向き、少女に向けて手を振る。金髪に青い瞳で腰にはディアがハントに頼んで流行させているカードゲームをぶら下げた少女はすぐにこちらにやってきた。

「お兄ちゃん! 台とボールの話をして!」

「マリー、そのお兄ちゃんはやめてって言ってるだろ」

「お兄ちゃんの元いた世界にあったえろげ〜って言うのでは男の人をお兄ちゃんって呼ぶんでしょ?」

「はいはい。で、今日はどこが気になるの?」

 マリーは両手を上にあげた後左右で手をぐるんぐるんと振って、それからようやく口を開いた。

「お兄ちゃんのやっている実験を見たけど、台の同じ高さまでボールが上がるのがすごく不思議」

 そう、これは本当に謎だ。この世界には魔法という不思議な力がある。それなのに何故エネルギーが保存している?

「実は私、お兄ちゃんの真似をしようと思って家であの台を作ってみたの」

「ほほう、頑張ったね」

「でもうまく行かなかった。ボールは半分の高さまでも上がらなかった」

 ディアはマリーの方をきちんと向いてから答えた。

「それは何故だと思う?」

「あの実験の時お兄ちゃんは魔法を使っていなかった。魔力の奔流を感じなかったから。他に考えられるのはボールが真円ではなかったから? だけど真円は実在しないって学校で習った…」

「魔法は使われていない。ボールも問題ない。じゃあ他には?」

「私があの台を上手に作れなかったって言うこと?」

 ディアはペンを取り出すとテーブルの上で転がした。

「このペンはあそこまで行って止まったけれどもそれは何故だと思う?」

「だって止まらないで端まで行ったら落ちてしまって都合が悪いじゃないですか」

 ディアは頷いた。

「いい意見だ。世の中は都合よくできているべきだ」

「でもそうならお兄ちゃんが実験した時のボールも上まで行かず止まるべきだった」

「そしてマリーが俺を真似した時はボールは止まった。ペンと同じように」

 マリーは納得したような表情になった。

「分かった、表面だ! お兄ちゃんの台は表面がつるつるでピカピカしてた! ザラザラしたところではボールが転がりにくいなんて当たり前じゃん!」

「それが摩擦力。だから我々が立って歩けるのもモノの表面がある程度ザラザラしているお陰だね。これも納得できると思う」

 マリーは一つ疑問が増えたという顔をして、それからやっとウェイターに牛乳をくださいと注文を出した。

「お金は払ってね。お兄ちゃん」



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