のっぺらぼっちゃんと世界でたった一人の美しい鏡

長月 有樹

第1話


 朝日の木漏れ日がカーテンの隙間が入り込む。ぅううと呻きながらベッドから起き上がる。大きくの伸びをする。やけに寝覚めの悪い朝だ。少しじっとりと汗ばんでいる身体に不快感を覚える。


 その理由はハッキリと分かっていた。まーーーーーじで変な夢をみたからだ。


 あたりは何も無く一面に黒が広がる視界で一人の老人がいた。黒いローブを羽織っており、顔もフードで隠されていたが、そこから覗く事のできる立派な白い髭から老人であると分かった。


 老人は何かを俺に囁きかけたが、ソレは聞き取る事が出来なかった。口は動いてるのに声が、音が、俺の鼓膜に届かない。必死に聞こうとする俺。最後の言葉が微かに聞こえた。


「シレンヲアタエル」


 なんじゃそらっと心でツッコミを入れるのと同時に覚醒する。シレンヲアタエルってなんじゃそら。もったいぶらせといてなんじゃ、そりゃそりゃと。


 この俺に?シレン?試練?ってそら、なんじゃそりゃとなるよ。だって俺は───と自分の寝室を眺める。


 ラグジュアリーなキングサイズのベッドと煌びやかなシャンデリアのみがこの広すぎる間取りにポツンと存在してる寝室。窓を空ける。広がる庭園、何処まで行っても視界が自分の家の緑が広がっている。か、金を持ってると明白な景観。


 俺の名前は澤井治。繰り返すが俺は金持ちである。分かりやすい富豪だ。どれくらいの分かりやすさかと言うと持たざる者には伝えられないレベルなのでいっぱいお金を持ってるのでおっきいお屋敷と何か色々なモノを持ってるとさせてくれ。


 俺が凄いのはなにも金を持っているだけではない。俺は今、17歳、高校生であるのだが、あーたまもちょーう良くて、運動もちょーすごい。これも持たざる者には伝えられないレベルなので、東大に入れるくらいの頭脳でかつ足の速さはカールルイスとおんなじくらいとさせてくれ。後たぶんイケメンだし。


 つまり。つまりですよ?そう、つまりなのですよ、そう、つまり俺は凄い人!勝ち組!搾取する側!めーーーっちゃ凄い人。なのですよ。


 だからね?だからねですよ!シレンヲアタエルって。そらなんじゃそりゃそりゃとなるんですよね、コレが。だって俺持ってるもん、全て。いやね、そら何言ってるのよ、御老人となるわけですよと。


 俺は一つ一つ自分の素晴らしさをかみしめて、ベッドの上で酔いしれる。おかしな夢の事なんざとっとと忘れて、また今日も勝ちまくる一日を始めようとムクリと起き上がると同時に。


「失礼しまーす。おはようございますー、ぼっちゃん」と気の抜けた声が、部屋のドアをガチャリと開けるのと聞こえてくる。


「……おはようエリサ。入るときはノックをしてくれよ」

「はーーい」とこれまた気の抜けた返事をする彼女は、鏡エリサ。俺のメイドである。メイドなのである。俺にはメイドがいる。そんなランクの人間です。


 スカートの丈が短くコスプレくささがあるが、マジで俺のメイド。金髪に褐色の肌もそれに拍車をかけて黒ギャルがそーゆー店でコスプレした感じをさらに強めているが、それは本人の生まれ持ったものである。マジで俺のメイドである。


「ぼっちゃん。朝食の用意ができましたよーー」とあくびをかみ殺しつつ気怠げなエリサと俺へと目線を向ける。


 のと同時に。俺たちは叫んだ。目いっぱい。全力。



「「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」」


 恐らく富士急行ったら出すよってレベルのお互いの絶叫が

響きあう。


「ぼぼぼぼぼぼ、ボボボーボぼっちゃん!ボーボボぼっちゃん???」俺を見て腰を抜かすエリサ。何?けど俺も言わなきゃいけない。


「いやっエリサ。おまえっま、眉毛めっちゃ太いぞ。なんかめっちゃ太いぞ」


「えっ?私の眉?い、いや今そんなんじゃなくて、それよりぼっちゃん!か、顔が」


 ん?顔?顔がどーした?と言う前に。目が泳ぎまくってぐるぐるしながらパニック状態になりかけてるエリサが言葉を続ける。


「顔が……無いです。」


「へ?」顔が……………無い?


「ぼっちゃんの美しいお顔が無いんです!!!のっぺらぼうになってます!ぼっちゃんの顔が」


 うっそーん。マジのシレンヲアタエルじゃねーか。

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のっぺらぼっちゃんと世界でたった一人の美しい鏡 長月 有樹 @fukulama

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