俺は人間ですか? サイボーグ愁思郎はかく戦えり
十二田 明日
プロローグ
そこは郊外にある薄暗い倉庫。
数人の男たちが集まっていた。みな人相が悪く、
「たまらねえな」
男の一人が大量の紙幣を持って、ニタニタと笑う。
「こんなに儲かるなら、もっと早くやってりゃ良かったぜ」
ここは麻薬の栽培を行っている
「おい、商品に手をだすなよ」
「分かってるって」
男たちは笑いが止まらない。
いつの時代も、人は何かに依存したがるものだ。様々な事が機械化、自動化される現代でも人の心は変わらない。
むしろ
男たちはそこに狙いをつけ、荒稼ぎしている。
リーダー格の男が口を開いた。
「おい警察に目ぇ付けられたりしてねぇだろうな?」
「そういや、最近それっぽいのが嗅ぎ回っているって、聞きますけどね」
「ったく」
それが本当なら、ここもそろそろ終いだ。また別の場所を探さなければいけない。
「仕方ねぇか」
それが男たちのやり方だった。
警察の
そしてまた新しい市場を見つけ、配合を少しだけ変えた新しい薬を売りさばく――ずっとそれを繰り返して来たのだ。
(さてと、次はどこで売りさばくか)
男が思案していると、
バコォンッ‼
爆発でもしたかのように、倉庫の扉がはじけ飛んだ。
「なっ⁉」
「何だっ⁉」
男たちは突然の事に、慌てふためく。
一体何が起きたのか?
「あの、すみません。公安局です」
聞こえてきたのは、場違いなほど間延びした声。
扉のあった空間に現れたのは、制服姿の少年だった。
色は白く、身長も比較的小さい。体格も
生命力というか、生物が持っている存在感というものが、この少年にはなかった。
少年――
「ここは包囲されています。大人しくしてください。抵抗する場合は実力行使で制圧することになります」
それはあまりにも淡々としていて、はっきりと言えば不気味だった。
吹き飛んだ扉と、喋っている少年と、その全てがチグハグで。
普段ならば愁思郎のセリフを一笑に付すだろう男たちも、不気味さに
「何だよ、テメェは」
「…………」
男の一人が問いかけるが、愁思郎は答えない。感情のない瞳で、じっと男たちを見ている。
その態度がムカついたのか──あるいはこの場の雰囲気に耐えられなかったのか。
男は懐から拳銃を抜いた。小口径の自動拳銃だ。
迷うことなく引き金を引く。
人を殺すことに迷いなどなかった。死体はあとからどうにでもなる──それよりもこの少年が存在していることが、男には不快だった。
銃声が倉庫の中を反響し、カラカラと乾いた音を立て、
「んなっ⁉」
男は目を見開く。
愁思郎は倒れなかった。
弾が外れたのか? ――違う。よく見れば胸のあたりに焦げたような跡がある。確かに銃弾は当たっている。
では、何故愁思郎は死んでいない?
冷めきった視線を送り続けているのは一体……?
「警告にも関わらず攻撃を受けました。これからあなた方を制圧します」
極めて事務的な口調で宣言すると、愁思郎はつかつかと銃を構えた男に向かって歩き始めた。
「う――ああぁぁぁっ‼」
男は半狂乱になりながら、引き金を引いた。
二度三度と、銃を撃ち続ける。
だが愁思郎は止まらなかった。立ち止まることはおろか、歩調さえ崩さない。前から飛んでくる銃撃に対して、何の影響も受けていないように見える。
制服姿の少年が、銃弾の雨を受けながら歩き続ける――質の悪い冗談のような光景だった。
愁思郎は男の目の前まで歩み寄ると、
ブンッ!
と右腕を振るった。
右から左へ、平手打ちの要領で男の構えた銃を払う。
甲高い金属音とボキリという鈍い音がした。
愁思郎に払われた拳銃は遠くへはじけ飛び、ひしゃげてスクラップになっている。そして男の腕はあり得ない方向へと曲がっていた。
「アアァァァああアァああッ⁉」
銃を構えていた男は腕を押さえ、その場にへたり込む。
その悲鳴は、折れた腕の痛みによるものか。
それとも愁思郎に対する恐怖によるものか。
「きっ、気を付けろ!」
見ていた他の男が鬼気迫る表情で叫んだ。声に焦りの色がありありと見て取れる。
それは愁思郎が大きな脅威であると理解したからに他ならない。
(銃の効かねぇ身体、そして今の怪力――間違いねぇ!)
「こいつはサイボーグだ!」
「…………」
愁思郎は無言で、男たちに襲いかかった。
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