第36話 輝きの代償2

「どうしたの鎌瀬くん」

「おう坂下ァ。実はァなあァ……」

 鎌瀬の手には、ハウンドβがいた。しかしハウンドβは心底だるそうにうずくまっていた。

「一体どうしちゃったの?」

 守人が言うのも無理はない。ハウンドβの目からは輝きが消え、やる気というやる気が感じられない。ただ生きているだけ、生きているのも辛いという顔をしていた。

「この間ァからァハウンドβのォヤル気ィがァ出ないんだよォ」

 鎌瀬の目から今にも涙がこぼれ落ちそうで、その場にいた皆が心配していた。

「今日はヨォ、もしかしたらァと思ってェ、外に出てェ見たがヨォ……なんでェこんなにィフヌケちまったんだろォなァ……」

 口を開いたのはラディすけだった。

「大丈夫だよカマセ、すぐに元気になるよ」

「ありがとうなァ。チートバトルアーツゥ。その言葉ァだけでもォうれしいぜェ」

 そのまま鎌瀬はそのまま去っていった。

「ラディすけ、ハウンドβは大丈夫なのか?」

 ヴァルきちの問いに、ラディすけは答える。

「アレは、悲嘆の種を植え付けられた反動だ」

「悲嘆の種? なにそれ」

「モリト、アレはなぁ……一種の起爆剤みたいなもので、芽が出ると爆発的に力が強くなったり、魔力量の底上げをしたり……簡単に言えばドーピングのチートだな」

「それはなに? ラディすけの生前の世界にあったモノなの?」

 ラディすけは口籠った。

「そうだな。アレに頼った戦い方をすると……変わるんだ」

「何が?」

「まあ、色々だ」

 守人はなんとなくわかったようなわからないような返事をした。

「ラディすけ、それは一体どういうモノなんだ?」

 ヒロ太は姿形、大きさなんかを聞いてくる。

「オレが見たのは、黒い植物の種みたいな形だった」

 一同フーンと納得できるようなしないような顔をしている。

「なんていうか、アレはとんでもなく危険だから、決して触らないこと! かな」

「とんでもない」

 遠くから聞こえた声は知った声だった。

「アレは素晴らしいモノだよ」

 それはクラスメイトの声だった。

「そうだよね? カイル」

「そうさ。高和」

 竜騎士と隣の席の転校生だった。

「バトルアーツを爆発的に強くする。素晴らしいじゃないか」

「オメエ、悲嘆の種のせいで何人の人間がヒドイ目にあったと思っているんだ?」

「それは僕らの知るところではないよ、青い剣士君」

 ラディすけが珍しく怒っている。静かに、だが青い炎がゆらめくように静かにしかし熱く。

「シーザ、お前ならわかるだろ? アレの危険性が」

 竜騎士は肩をすくめる。

「差し当たって、オレのやることは、お前を止めることみたいだな。シーザ」

 ラディすけは剣を引き抜く。

「ラディ。お前に止められるか?」

 両者は地面に降りる。各々武器をかまえて臨戦体勢を取る。

 一瞬の空白。

「ラディすけ……」

 唐突に始まったバトルに、守人は困惑した。しかし、ラディすけの横顔はいつになく真剣な顔だった。

「必ず勝つんだよ!」

 そして二体のバトルアーツは駆け、槍と剣は交差したのだった。

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