絶望の足音
第35話 輝きの代償1
今日も勝てた。昨日も勝てた。多分明日も勝てるだろう。
あの時。あの場所で右手が輝いてからえらく好調だ。
体は今まで以上に軽く頑丈になり、込められる力の量も増えた。練習を重ねれば、もっと強くなるだろう。
さあ、もっと強くなり、もうどんなヤツにも絶対に負けないようにならねば!
1
守人にラディすけとヒロ太は今日も公園へとやって来たのだった。もちろん公園に来ているほかのバトルアーツとバトルをするのが目的である。
「誰とバトルしようかな?」
なんてバトル相手を探している矢先のことだった。
「お! おーい。天野くん」
駆けてきたのはミサだった。もちろん彼女のバトルアーツ、ヴァルきちも一緒だ。
快活に挨拶してくるミサに対し、ヴァルきちはどこかぎこちなかった。
ラディすけの「よう」という挨拶に、ただ一言、「おう」とだけだった。目もなんとなく合わせられない。そんな様子だった。
「何かあったの?」
「守人、言わせるな」
ヒロ太に止められたが、よくわかっていない守人は、頭に「?」を浮かべている。全くもってわからないという顔をしていた。
「一体なんなの?」
「そんなことより守人、今日のバトル相手を探そう」
渋々ながら守人は、ヒロ太バトル相手を探す。ラディすけは「ヴァルきちと話すことがあるから」なんて言って遠慮したのだった。何を話すのかは知らないが、遠くから見るその様子はとても楽しそうでなんとなく羨ましかった守人だった。
そんな守人とヒロ太に話しかけてきたヤツがいた。小学生には変わらなさそうだが、守人より少しだけ幼そうに見えた。
「バトルしない?」
バトルのお誘いだった。守人とヒロ太は快く承諾し、バトルが開始された。
相手はアーチャータイプ。遠距離戦が得意と顔に書いてあった。
開始の合図と同時にアーチャーは弓を引く。
一方でヒロ太は剣を抜くと同時に駆けた!
矢を放った瞬間、ヒロ太はアーチャーの首筋に剣を突きつけていた。
アーチャーは負けを認め、手に持っていた弓を離す。
「くそー次は負けないからな!」
小学生はそう言って、アーチャーを拾い上げ、帰っていった。
勝利。圧倒的勝利だった。
「やったねヒロ太!」
「そうだな。うぉッ!」
そしてヒロ太は、突如現れたキャットに襲われたのだった。
キャットにさらわれなかったのは守人がすぐに追い払ったからだ。ヒロ太は守人にあらためて感謝した。
「すまない。いつもいつも」
「なんでキャットに襲われるんだろうね? キャットの大好きな成分でも分泌しているのかな?」
ヒロ太は「それはないだろう」と笑いながら守人の肩に戻ったのだった。
「やあ天野くん大勝利だったねえ」
と話しかけてくるのもそこそこに、ミサはラディすけとヴァルきちの話を聞いている。
「いい天気だなぁ」
「そうだな。飛んでいけそうな天気だな」
ラディすけは答える空を仰ぐ。
「バトルがしたいとかどうでもよくなるような、いい天気だなあ」
「本当だな。私もずっとここにいたい」
優しい風が二人をくすぐっていく。
「平和だなあ」
「ああ、平和だ」
「何してんの?」
守人は思わず声をかけてしまった。
「おお、モリトか。元気していたか?」
と、アクビ混じりにラディすけは返事をする。
「ラディすけはバトルしないの?」
ラディすけは少し考え、「今日はいいや」と答えた。守人にとってその答えは意外だったし、なぜかはわからなかった。
「おいお前ら二人」
ラディすけとヴァルきちはヒロ太に向く。
「君ら公然でいちゃつきおって、爆死したまえ」
「嫉妬は見苦しいぞヒロ太」
ヴァルきちもうんうんうなずく。
ついていけないのは守人だけだった。なんとなく悔しく思ったが、守人はラディすけの隣に腰を下ろす。
「まったく」
よくわからないが、そんな言葉が出た。
「本当だぞォ天野ォ」
ベンチの隣に立ったのは、幽鬼のように青い顔をした鎌瀬だった。
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