第20話 魔王の世界2

 サイバーダイン社の門は大きく開かれていた。社員やら研究員やらが、逃げる時に開けっ放しにしておいたのだろうか?

「でもさ、こういうのって逆に不気味だよね……」

「なんだ? モリトこええのか?」

 守人はラディすけに無言の返事をする。

「守人安心しろ、俺たちだって怖いさ」

「そうなの?」

 ヒロ太は周囲を警戒しながらも「そうさ」と返事をする。

「ラディすけもそんなこと言っているが、怖いハズだ。むしろ一番怖いと思っているのはラディすけだろう」

 ラディすけは辺りを警戒するフリをして、二人から目を逸らす。

「一番やられたのはラディすけだからな」

「……今度は負けねえ」

「勇者殿がそう言っているんだ。俺たちは勝つ!」

 ビビり上がっていた守人の心に、再び勇気の炎が燃え上がった。

「そうだね。ここでこうしていたら怪我人が増えるだけだ」

「モリト行こうぜ。お前はオレたちが必ず護る」

 サイバーダイン社の自動扉を手で守人はなんとかこじ開けながら返事をした。

「大丈夫だよ。自分の身は自分で護る」

「頼もしいマスターだなラディすけ」

 ラディすけが返事をしようとしたしたその時だった。館内放送が流れた。

「ようこそ諸君」

「「魔王!」」

 思わずラディすけと守人は声をあげる。

「この声が魔王か」

 ヒロ太もその声を記憶したようだった。

「歓迎しよう。さあ、宴の始まりだ」

 ラディすけとヒロ太はそれぞれ剣を抜き、迫り来るバトルアーツたちに向かっていく。

 その数はざっと見て二十体。なかなか手強そうだった。しかしもう戻れない。魔王がシャッターをおろして、外へと逃げられなくしたのだ。

「魔王! どうしてこんなことをするんだ!」

「なに、娯楽だよ。殺して楽しむ。ごく自然なことではないか?」

「命なんだぞ! それを勝手に奪っていいはずはない!」

 守人の言葉を聞いて、魔王は大きく笑う。

「モリト、奴の言葉を聞くな。ヤツは魔族の長だ。根本的に考え方が違う!」

 三体目を倒しつつ、ラディすけは守人に声をかける。

 守人は少し悲しくなりつつも、バトルアーツたちに向かって走っていった。

「うぉ!」

「守人か!」

 ラディすけとヒロ太を拾い上げ、バトルアーツたちを守人は蹴散らしていく。

「魔王! すぐ行くからな!」

 守人はそう宣言し、サイバーダイン社の廊下を走った。

 徐々に廊下に現れるバトルアーツの数が増えていく。工場を併設しているこのサイバーダイン社の本社は、溢れるほどのバトルアーツがあるから仕方のないことだった。

「数が多くなってきた」

「走れ! 守人!」

「モリト、角曲がれ!」

 しかし曲がった先は行き止まりだった。

「やべえなこりゃ」

 背後からは百体近いバトルアーツたちが、三人目掛けて進んでくる。影が見えてきた。

「守人左手に部屋がある。とりあえずここに入ろう」

「でも、退路が……」

 部屋に入ったら自分たちが余計不利になるのではないか? 守人はそう察したのだ。

「退路なんか元々ねえだろ! 速く入れ!」

 その言葉と、バトルアーツたちの影にビビり上がった守人は言われた通り部屋に入る。

 入ったそこは倉庫だった。備品なんかが所狭しと並べてあった。

「バカ、はやくカギしめろ!」

 ハッと我に帰った守人は振り向き、扉の鍵を内側からしめた。

 二秒後には、扉をどんどんと叩く音が聞こえてきた。どうやら間一髪だったようだ。三人は思わず大きく息を吐く。

 そしてヒロ太は気づいた。

「誰かいる」

 二人は守人の肩から降り、動いているモノの方へと向かっていく。

「バトルアーツか?」

 守人はバッ! とそれを覆っていた布をとる。

「ひいい! もう許して!」

 ひたすらに「ごめんなさいごめんなさい」と謝ってくるそいつは、白衣を着ていた。どうやら逃げ遅れた研究員らしい。

「助け……かい?」

「僕らは魔王討伐に来た勇者たちだよ」

 守人は上がった息を整えながら、、研究員らしい男に手を貸し立ち上がらせる。

「魔王? ああ、ワーグのことか。子どもにそんなことできる訳ないだろ? 帰ってゲームでもするんだね」

 相手が子どもと思って急に気位が高くなったようだ。

「それができたら苦労はしねえけどな」

 ラディすけとヒロ太の姿に一瞬ビビった研究員だったが、すぐに居直った。

「君、そんなエントリーモデルであのワーグに勝つつもりなのか?」

「そうだ」

「なんか問題でもあんのかよ?」

 ヒロ太とラディすけの言いっぷりに研究員は失笑する。

「ハッキリ言おう。そのままでは無理だ。ワーグのスペックは君たちの三倍以上、いやもっとスゴイものになっている」

「人を勝手に枠にはめてんじゃねえよ」

「そうだ、やる前から諦められない」

「違うよ、『今のままでは無理』と言ったんだ。このフレームとボディを使えばあるいは届くかもしれない」

 研究員がポケットから取り出したのは、剣士タイプのバトルアーツのボディ二体分だった。

「これは?」

「試作品。次の我が社の新商品さ」

 奇しくも赤と青のその鎧は、胸に不死鳥のマークが刻まれていた。

「カッコイイ!」

 守人は思わず声を上げた。

「フッフーン。そうだろう? この『不死鳥の鎧』はボクがデザインしたんだ」

 研究員は「新型フレームはボクではないけどねえ」と得意気だった。

「で? コレなら魔王に勝てるのかよ?」

「答えを急きすぎだよ。青い鎧のキミ」

「ラディすけだ」

「ラディすけか、そっちの赤い鎧のキミは?」

「ヒロ太だ。そういうあなたは?」

「ああ、自己紹介がまだだったね。ボクはここの研究員……っと、そんな時間は無いようだ。さあ、少年。彼らを新しい体に換装させるぞ!」

「このバトルアーツ、頭がないけど?」

「頭部パーツは現状のものを使えばいい。さあ、時間がない。ヤツらが踏み込んでくる前に!」

「わかった。ゴメンねラディすけ。ヒロ太も」

 守人はラディすけとヒロ太の電源を落とし、メモリーカードを入れ替える。そして頭部パーツを外し、不死鳥の鎧の頭部に付け替える。守人は、ラディすけにマフラーを付けてから頭部をハメた。

「よし、終わった! 少年は?」

「……っと、終わりました」

「いい手際だったよ。さあ、二人を起動させよう」

 ラディすけとヒロ太は再び起動した。

「二人とも大丈夫?」

「大丈夫だモリト。バッテリーも満タンだぜ」

「こちらも問題ない」

「大丈夫そうだな。最後にコレを」

 研究員が取り出したもの、それは剣と盾だった。ご丁寧に一セットずつある。

「コレは?」

「その鎧に対応する剣と盾だ。きっとキミらの役に立つと思うよ」

「軽い、でも頑丈な、いい剣と盾だな」

 ヒロ太の言葉に、うんうんと頷く研究員は実に満足気だった。

「さあ、勇者たちよ! 未来は君たちに託された! 頼んだぞ!」

「って、どこから出ればいいのやら」

 研究員が「それも考えてある」と指さした方にあったもの、それは……!

「確かにコレなら扉を開けずに行けそうだ」

 ヒロ太は空調のダクトの前に立つ。

「ちょっと待ってよ」

 守人は思わず声を上げた。

「二人だけで行かせるわけにはいかないよ」

 守人は「自分も行く!」と言い出した。

「モリト、三人で行ったら誰が、そのオッサンを護るんだ?」

「でも……」

「守人、ここは俺とラディすけに任せてほしい」

「ああ、必ず魔王を倒す! 今度もな!」

 今にも泣きそうな顔をしている守人を二人の勇者は見上げていた。

「……必ず、必ず帰ってきてよね!」

「ああ、必ずだ。守人」

「んで、また公園にバトルに行こうぜ!」

 研究員は無言のままダクトのカバーを開けた。

「二人とも、頼んだよ」

「任せとけ」

「行ってくるぜ、モリト」

「約束だからね!」

 二人の勇者は、ダクトの中を進み、死地へと向かった。

「ヒロ太」

「なんだ?」

「しねえんだよ」

「……ああ、しないな」

「負ける気がしねえ」

「確かに、今ならどんな相手だろうと勝てる。これは確信だ」

 ラディすけは「違えねえ」と、武器を持つ力を少しだけ強くした。

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