第8話 HERO2
家へと帰ってラディすけが望んだのは、拾ったソイツとのバトルだった。
「なあモリト、そいつとバトルできるかな?」
「手当てが先でしょ!」
鋭いツッコミに、ラディすけは肩をすくめるのだった。
守人は再起動をかけることなく、プラモデル用のパーツオープナーを引っ張り出してきて、拾ったソイツをバラしていった。
「なんだ? バトルアーツ体実験か?」
語呂の悪いことを言ったラディすけに「違うよ」と笑いながら返しながらパーツをバラバラにして、鎧のパーツとフレームを別にする。
「さっき僕の手から降りようとした時、この子変だったのは右足だよね?」
「ああそうだ」
そして、フレームをよく調べる。すると、右膝のところに何か挟まっているのを見つけた。
守人はそれをピンセットで取り出す。
「それはなんだ?」
「どうもキャットの爪みたいだね」
それは薄く剥けたキャットの爪だった。おそらくキャットがパンチをした時、右膝関節に爪が刺さったのだろう。
それを引き抜いたら、もう稼働はスムーズだった。
「よし、あとはこっちのパーツを洗うかな」
水切り用のザルの中へとパーツを入れていく。洗面所でそのパーツらを守人は洗浄用の歯ブラシで洗った。砂まみれ泥まみれだったので、パーツは薄汚れていたが、赤い色が出てきた。
「赤い剣士か。ブライアンシリーズかな?」
「その辺はわからねえけど、治りそうか?」
「ちょっと待って、この泥が頑固で……とれた!」
食器用の中性洗剤で洗ったおかげで、ピッカピカの新品状態になった赤いパーツたちを守人はタオルの上に敷き詰め、ドライヤーの温風で乾かしていく。
「うわっぷ」
ちょっとだけラディすけに温風を浴びせからかいつつも、赤いパーツを乾かしていく。
「乾いたね」
守人はフレームに組み込んでいく。
「……よし、完成だ!」
再起動をかける。そして赤い剣士は起きた。
「あれ? ここは?
寝ぼけ眼で守人の顔を見て、気づいた赤い剣士は腰の剣をすぐさま引き抜く。
「お? やるか?」
ラディすけもまた、腰の剣を引き抜く。
「ちょっと待って!」
二人を制したのは守人だった。
「僕は守人、天野守人。こっちは僕のバトルアーツのラディすけ。キミ、名前は?」
「名前……」
赤い剣士は少し考えた。言うべきか言わざるべきかそれを考えたのだろう。
「俺の名は……ヒーローだ」
「じゃあヒロ太だね。よろしくヒロ太」
「なんでそうなるんだよ?」
ラディすけのツッコミに耳も貸さず、守人は小指を差し出す。
「ヒロ太という名前で呼ばれていたことを何故知っている」
「「え?」」
中国四千年もびっくり! といった顔を守人とラディすけはする。
「なんだ偽名を使おうとしたのか」
「なんかごめんね。呼びやすそうだからヒロ太って言っただけなんだ」
そこまで言われて初めてヒロ太は舌打ちし、守人の小指を握り返す。
「それよりよ」
ラディすけは守人の肩から飛び降り、ヒロ太のいる机の上に着地する。
「やろうぜバトルだ」
ヒロ太はそれを鼻で笑う。
「お前ごときが俺とバトルか?」
二人の間の空間が歪んでいく。
そして二人は守人の静止を聞かず、バトルに入った。
ラディすけは飛び上がり、ヒロ太に斬りかかる。ヒロ太は足元にあったボロ布を掴み、ラディすけに向かって投げた。
ラディすけは舌打ちし、ボロ布を払う。その間にヒロ太はラディすけに一撃を食らわせる。ダメージとしては体力バーの五分の一くらい減っただろうか?
「まだ俺とやるのか?」
「ヘッ、あったりまえだろ?」
「ちょっと、二人ともやめてよ!」
スイッチの入ったラディすけとヒロ太を止められるワケもなく、守人はめちゃくちゃになっていく部屋をただあわあわと見ているだけだった。
剣を一合、また一合と合わせていく度に、部屋のモノが飛んでいく。
「なかなかに鋭い」
「見下してんじゃねえ!」
守人が部屋をあとで片そうと決意したところで、両者は必殺の構えをとる。
ラディすけは肩の辺りで剣を構えた。ヒロ太も下段のかまえをとる。
そして両者は必殺技を繰り出した。
「食らえ! サンライトスラッシャー!」
「行くぞ! オレの必殺技!」
両者はお互いに向け突進していく。そして振り上げられる剣と、振り下ろされる剣がぶつかる!
飛び上がる一本の剣。先に膝をついたのは、ヒロ太だった。
「ラディすけお前の勝ちだ」
「ああ、オレの勝ちだ」
ラディすけはヒロ太に手を差し出し立つよう勧める。
「なかなかいいバトルだったな」
「ああ、本当だ。あんなバトル俺も味わったことがないかもな」
アッハッハとやっているところに、幽鬼のような顔をした守人が口を挟む。
「気は済んだ?」
ラディすけとヒロ太はハッと気づく。ドシャメシャに散らかった守人の部屋に。
「なんだこりゃ? ひでえなモリト」
「ちゃんと片付けないとダメじゃないか、守人」
「キミたちがやったんだろ!」
怒られ、若干シュンとするヒロ太に対して、ラディすけは吹けない口笛を吹いて誤魔化している。
守人は「ったくもう」と言いながら部屋を片している。
「キミたちも手伝えよ!」
しかし、守人は内心喜んでいた。ラディすけとヒロ太、二人が仲良くなってくれたことに。
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