第27話 『ダイスゲーム』開始の宣言


 ■■■

 

 アギルに指定された場所――王城の屋上。

 見晴らしはよくここには関係者しかおらず、外野はいない。

 ただし沢山設置されたカメラが城内の客間や街のテレビカメラに映し出されている事はすぐに見て取れた。

 恐らく二人をここで倒し、見せしめにするつもりなのだろう。

 救いようがないバカだな、と心の声を殺し、視線を用意されたと思われる『ダイスゲーム』のフィールドに目を向ける。

 外観は街の物と違うが一見イカサマなどはされているようには見えない。


「……見た所……大丈夫そうだが……」


 相手がイカサマをしてこない確証がないうちは疑ってかかるしかない。

 とは言っても、今見て取れる情報からだけではイカサマをされているようには見えない。ただいつもと違うのは『ダイスゲーム』のプレイヤーが二人ずつ両サイドに立てるように幅広く、装飾品にもお金を無駄に掛けているなぐらい。


「ようこそ。俺の特設ステージ、天空城へ。ここでは告知通り二対二で戦ってもらう。ほれ、まずはそこの罪人を開放してやる」


 すると、アギルの手下たちが無理矢理引っ張って連れてきた琢磨の鎖を外し、刹那達の方へと背中を押し自由にする。

 抱きしめ感動の再会をするさよと琢磨を横目で見て刹那が言う。


「悪いけど、そこの罪人の代理人二人目はコイツ。負けたらコイツの事も好きにしていい」


 義妹を当たり前に勝負の戦利品にする刹那の言葉にさよが口を挟もうとするが、


「って事で構わないよね?」


 とこちらも乗り気な育枝を見て口が止まる。

 これで刹那と育枝が手を組む最強の布陣が出来たわけだが、それは相手もどうやら同じだったようだ。


「……まぁいい。だが男に二言はないぞ?」


「あぁ」


「女、お前は?」


「それで構わないよ」


 それぞれが頷くと、アギルのパートナーが姿を見せる。

 その人物とは三度目の対面となる者だった。

 青髪で少し目つきが厳しくとげとげしいオーラを放つ少女だ。


「また会いましたね、異世界人」


「だな。青髪」


 咳ばらいをして、訂正を求める少女。


「私の名前は唯(ゆい)。青髪は止めて頂きたい」


「わかった。んで勝負の内容は?」


 勝負を受ける為、定位置につく刹那と育枝。

 すると――。

 指をパチンと鳴らすアギル。

 ダイスフィールドとなる天空城に四人のアバターが出現し武器を構える。

 それを見た刹那と育枝が舌打ちをする。

 やられた、そう思った時には遅かった。


「流石に気付いたか。わざわざ二対二にした理由が」


 ポケットからスマートフォンを取り出した育枝は何かを確認するようにしてとある画像を見る。間違いない杖とは魔法使いの象徴でもある。この場合魔法使いとは魔法を使う者のことだろう。つまり魔適性質が高いことを意味すると考えられる。


「槍と杖。つまりランサーと魔法使い。二対二のチーム戦ではかなり相性が良い前衛後衛ポジション。対してお前達二人は初期装備の剣と来た。俺も随分と舐められたもんだ。知ってると思うがランサーはダイスに干渉する魔法が得意だ」


 二対二と言われた時にそこまで頭が回らなかった刹那は育枝に視線を向けて小声で聞く。


「俺となら問題ないか?」


 育枝は一度目を閉じて息をゆっくりと吐き出す。

 それから閉じていた目を開け刹那の目を見て頷く。


「私達だけじゃない。さよちゃんやたっくぅー、後はアリスの為にもここで逃げるわけにはいかない」


 真剣な眼差しは刹那の心の中を覗き込むかのように綺麗で美しい。

 まるで黒く輝くオニキス(宝石)のようだ。

 オニキスは成功の象徴と呼ばれる石で、様々な災厄や災害から身を守ってくれる石だと人々に信じられている。また持ち主にとってマイナスな事を払いのけ、成功へと導いてくれるパワーがある。なにか達成したい目標や夢、今頑張っていることを成就させたい時に力を貸してくれる。そんなオニキスのような瞳を二つ持つ育枝を見て、自分の使命を今一度思い出す刹那。


「そうだったな。俺達の背中には沢山の想いがあるんだったな」


 最初の状態で有利な展開を見せつけのにもかかわらず動じない刹那と育枝を観察するアギル。

 だけど二人の思考が全く読めずにいた。


「こちらの思い通りだけにはいかない。相手の思い通りの展開も利用できそうか?」


「できるだけ配慮する。けど時間がいる」


「わかった」


「刹那は?」


「勝利の方程式構築に俺も時間がいる」


「わかった」


 いつもの二人ではない。

 そう今はダイスの神としてこの場にいる二人――刹那と育枝。

 そこに油断もなければ、相手にこちらの作戦が簡単に読まれるような隙は当然見せないし、仕草すら簡単には見せない。

 今までダイスの神として受けた戦いでは全戦全勝で刹那が本気になった勝負でも全戦全勝。その過去が二人にどんな敵でも立ち向かえる勇気をくれる。決して一夜漬けでは手に入れれない鋼の意思が刹那と育枝にはある。それは世界が変わろうと決して形を変える事はなく、なくなる事もない刹那と育枝だけに許された力。


「ルール説明だが、基本的には一対一の『ダイスゲーム』と変わらない。ただしダイスを振るのも出目を振り分けるのも四人同時に行う。その後出目振り分け時に指定した味方もしくは相手に攻撃なり防御なりスキルを使うことになる。とりあえず基本的なルールは以上だが、後は必要な時に説明で構わないか?」


 刹那と育枝は黙って頷く。

 一般的なダイスゲームでは人数に関係なくHPが五十から始まる事は文献で既に確認済みである。また使用されるダイスも百面ダイスに限定される。


「「四人同時……」」


 兄妹の心の声が重なった。


「なら『ダイスゲーム』開始と行こうか!」


 声に反応して『ダイスゲーム』のフィールドに【勝負開始】と大きな文字が出現した。

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